【M&A判例】営業譲渡契約の解除で商標権はどうなる?|パーソナルトレーニングShapes事件

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※画像はイメージです

営業譲渡(事業譲渡)契約の解除にともなう商標権の取り扱いが争われた裁判例

平成18(2006)年、商法の大改正があり、会社法で「営業譲渡」が「事業譲渡」という呼称に改められました*。ただし、今でも「営業譲渡」が使用される場合があります。それは、法律の当事者に”個人”の商取引が含まれる商法が適用される場合です。

*会社法では事業譲渡、商法では営業譲渡と表記されますが、これらは同意義です。

事業譲渡(商法においては営業譲渡)の際、ブランド名やロゴ等の「商標権」を移転するケースは少なくありません。なぜなら譲受人が買収した事業を継続するためには、商標の継続使用が必要となるからです。

では営業譲渡契約が解除されたとき、原状回復として商標権の取り戻しができるのでしょうか?譲受人が新たに類似の商標登録を行った場合、その商標権の取り扱いがどうなるのかも問題です。

今回は営業譲渡にともなって商標権が移転された後、営業譲渡が解除された場合の商標権の取り扱いについて判断された事例(東京高等裁判所平成31年2月27日)をご紹介します。

Shapes事件の概要

本件は、パーソナルトレーニング事業の営業譲渡が行われた事例です。

控訴人であるA氏は著名なトレーナー(以下、A氏といいます)で、「姿勢トレ」「シセトレ」「Xメソッド」など独自に開発したトレーニング手法が人気となり、東京・渋谷でパーソナルトレーニングジム「Shapes」を運営していました。

そんな折、被控訴人のコンサルティング会社(以下、B社といいます)と縁があり、「Shapes」の事業をフランチャイズ展開することで合意、ライセンス契約を締結しました。

ところがB社が次々と新店舗をフランチャイズ展開する一方、A氏が運営する渋谷本店は業績が悪化してしまいます。そこで、A氏からB社へトレーニングジム業を営業譲渡することに。その際、A氏とB社との間で顧問契約を締結し、B社はジムの営業に際してA氏に顧問料を支払う約束をしました。

また営業譲渡と同時にA氏の「シセトレ」「姿勢トレ」「Shapes」などの商標権をB社に移転。その後B社自身が譲り受けた商標権をもとに「シェイプス」や「ShapesGirl」など類似の商標登録を行い、権利を取得しました。

しかし、A氏は営業譲渡後もこの商標を利用し続け、ウェブサイト上で宣伝を行うなどしていました。

これに不信感を募らせたB社が顧問料を払わなくなったため、A氏が顧問契約を解除。これと密接に関連する営業譲渡契約も解除すると主張しました。

またA氏がB社へ移転していた商標権の返還(移転登録抹消)を求め、B社が営業譲渡後に自社で取得した商標権の移転も求めました。

一方でB社は自社で取得した商標権をもとに、A氏へ損害賠償や商標利用の差し止めを請求しました。

Shapes事件の争点

本件で主に争われたのは、以下の点です。

1.顧問料不払いによる顧問契約解除により、営業譲渡契約も解除可能か

B社はA氏へ顧問料を支払わなかったため、A氏は債務不履行にもとづいて顧問契約を解除しています。これに伴い、顧問契約と密接に関連する「営業譲渡契約」まで解除できるのかが争われました。顧問契約と営業譲渡契約は「別の契約」であり、営業譲渡契約そのものについては不履行がないためです。

2.A氏からB社への「商標権移転登録抹消請求」が認められるか

営業譲渡に伴い、A氏はB社に対し商標権を移転したので、その取り戻し(移転登録抹消)を求めました。そこで営業譲渡契約解除にもとづく原状回復請求として、商標権を取り戻す権利まで認められるのかが争いになりました。

3.B社が新たに取得した商標権の移転登録請求が認められるか

B社は、営業譲渡後に自社で商標登録を申請し、新たに商標権を取得。ただこの商標権は、もともとA氏から譲り受けた商標と類似しており、「A氏から商標権の譲渡を受けたからこそ認められたもの」という側面がありました。

そこでA氏は、自社で出願したものではないB社の商標権についても移転登録を要求。B社は「これは自社で取得した商標であり、原状回復の範囲に入らない」と反論したため、争点となりました。

4.B社からA氏への損害賠償、差し止めは権利の濫用か

A氏は本件の顧問契約と営業譲渡契約を解除し、B社の取得した商標を使って営業行為を行いました。B社としては自社で取得した商標だったので、A氏による商標使用を「商標権侵害」と主張。損害賠償や差し止めを請求しました。

A氏としては「B社による商標権侵害にもとづく請求は権利の濫用として認められない」と主張したため、争点となりました。

裁判所の判断

上記の争点に対し、東京高等裁判所は以下のように判断しました。

1.顧問契約不履行にもとづく営業譲渡契約解除について

A氏は「顧問契約と営業譲渡契約には密接な関係があるので、顧問契約の解除にともない営業譲渡契約も解除できる」と主張しました。

確かに顧問契約と営業譲渡契約は異なる契約である以上、顧問契約に不履行があったからといって当然に営業譲渡契約を解除できるとは限りません。ただし本件では、顧問契約と営業譲渡契約は「A氏からB社へパーソナルジム業を移転する」という同一の目的にもとづくものであり、密接に関連しています。

裁判所としては「片方が解除されるともう一方だけでは目的を達成できない」として、顧問契約解除に伴う営業譲渡契約の解除も認めました。

2.商標権の移転登録抹消請求について

A氏は営業譲渡契約の解除にもとづく原状回復として、もともと自社で取得した商標権の取り戻し(移転登録抹消)を請求しました。

裁判所は、営業譲渡契約が取り消された以上、A氏の取得した商標権をB社にとどめておくべきではないと判断。B社への商標権移転登録抹消請求が認められ、A氏は自社で取得した商標を取り戻せました。

3.新たに登録された商標権の移転登録請求について

B社は、営業譲渡後に自社で商標権を出願、取得していました。この商標権は、A氏から譲り受けたものと類似しており、A氏から商標権を譲り受けたからこそ登録が認められたものです。A氏はB社があらたに取得した商標権についてもA氏へ戻すべきと主張し、移転登録を求めました。

この点について、裁判所は「B社が取得した商標はあくまでB社が出願したものであり、A氏に移転登録を請求する権利はない」と判断。「A氏の商標とB社の商標が社会通念上同一ともいえない」としてA氏に主張を認めませんでした。

A氏は「B社はA氏のために事務管理として商標を出願したものであるから、自社が真正な権利者である」とも主張しましたが、裁判所は否定。B社は独自に商標権を出願しているので「単なるA氏のための事務管理とはいえない」として、A氏による移転登録請求を棄却しました。

4.権利濫用について

B社は、A氏が商標を利用したために、商標利用の差し止めや損害賠償請求を行っていました。A氏としては、もともと自社の商標をもとに出願された商標なので当然自社に利用権が認められるべきであり、B社による主張は権利濫用と反論。

裁判所は、「A氏がB社による出願前から利用していた商標」については継続利用を認めるべきとして、これについての差し止めや損害賠償請求については権利濫用と認めました。

一方で「もともとA氏が使っていたものではないB社独自の商標」については、原告が利用する理由はないとして権利濫用の主張を認めませんでした。

本件のポイント

本件は「営業譲渡に伴って移転された商標権」や「新たに取得された商標権」の帰趨が争われた事例です。

結果的に、営業譲渡契約が解除された場合、営業譲渡に伴って移転された商標権の取り戻し(移転登録抹消)は可能ですが、営業譲渡後に新たに取得された商標権(「シェイプス」や「ShapesGirl」)についてまでは取り戻しができないと判断されました。

ただし「もともと譲渡人が利用していた標章」については継続利用が認められたことにも着目すべきです(B社による差し止め、損害賠償が「権利濫用」と認定されたため)。

本件は、営業譲渡と商標権の関係を確認する貴重なケースですので、ぜひとも参考にしてみてください。

文:福谷陽子(法律ライター)/編集:M&A Online編集部

慣習に倣い、文中の判例は全て和暦で表記しております

福谷 陽子 (ふくたに・ようこ)

法律ライター 元弁護士

京都大学法学部卒業
10年の実務経験を積んだ後ライターに転身し、現在は各種法律記事を中心に執筆業を行っている。弁護士時代は中小企業法務や一般個人の民事事件を中心に取り扱っており、その経験を活かし法律ライターとして活躍中。


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