【M&A判例】買収防衛策が「適法」と判断されたブルドックソース事件

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ブルドックソース東京本社

ブルドックソース事件 買収防衛策が「適法」と判断された最高裁の判例をわかりやすく解説します

敵対的買収の防衛策として、企業が買収を仕掛けられた際に既存の株主へ新株予約権を発行する等の条項を定款に入れておく「ポイズンピル(毒薬条項)」という手法があります。これは、既存の株主の株式保有比率を高めることにより、買収相手の株式保有割合(持ち株比率)を低下させて買収を防止しようとするものです。

しかし買収相手とその他の既存の株主とで新株発行の条件を変えるのは、「株主平等原則」に反するのではないでしょうか?

今回ご紹介する「ブルドックソース事件」は、そういった差別的な新株発行の適法性が判断された判例です(最高裁平成19年8月7日、平成19年(許)第30号)。

1.ブルドックソース事件の概要

平成19(2007)年頃、米投資ファンドの「スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(以下「スティール」といいます)」が、当時東証二部に上場(現在は東証一部)していた「ブルドックソース株式会社(以下「ブルドックソース」といいます)」<2804>に対し、敵対的買収を仕掛けていました。

同年5月18日、スティールはブルドックソースに対して株式公開買付け(TOB)を実施します。この時点でスティールはブルドックソースの発行済株式の10.25%を保有し、同社の筆頭株主となっていました。このままでは経営支配権を奪われてしまいそうな状況に。そこでブルドックソースは新株予約権の発行により、スティールによる買収を阻止しようと考えました。

新株予約権とは、あらかじめ定めた価格で株式の交付を受けることができる権利のことです。今回のケースでは、ブルドックソースの既存株主へ1株につき3個の割合で新株予約権を無償で割り当てるという行使条件を定め、わずか3円の払込みによって保有株式数を4倍に増加させられるように設定しました。

しかし、既存株主でもスティール関係者にはこの条件を認めず、「新株予約権を行使できず、株式相当額(1個につき396円)の金銭を交付する」としたのです。

スティール以外の全株主が新株予約権を行使すると、スティールの株式保有割合は計算上2.82%にまで減少する結果になります。そこでスティールはこのような差別的な新株予約権の割り当ては「株主平等原則」に違反するとして、新株予約権の発行差し止めを求めて提訴しました。

■スティールによるブルドックソースへのTOB経緯

年月日 できごと
平成19年5月16日 ブルドックソースがスティールからTOB実施する旨を書面で受領
同18日 スティールがブルドックソースの全株取得を目的とした公開買付けを開始。買付価格は1株1584円
同25日 ブルドックソースがスティールに対する質問事項を付した意見表明報告書を関東財務局に提出
6月1日 スティールが対質問回答報告書を提出
同7日 ブルドックソース経営陣がTOB反対を表明
取締役会が24日の定時株主総会で定款変更と新株無償割当の議案提出(新株無償割当)を決定
同13日 スティールがブルドックソースの新株無償割当の決議禁止と新株発行差し止めを求め東京地裁に申立て
同15日 買付期間を8月10日まで延長。買付価格を1株1700円に引き上げ
同24日 ブルドックソースの定時株主総会で新株無償割当の議案が圧倒的多数の賛成で可決される
同28日 東京地裁がスティールの申立てを却下、スティールは即時抗告
7月9日 東京高裁がスティールの即時抗告を棄却、特別抗告へ
同11日 ブルドックソースがポイズンピルの買収防衛策を発動
8月7日 最高裁がスティールの特別抗告を棄却
同8日 買付期間を8月23日まで延長。買付価格を1700円から425円へ引き下げ
同23日 公開買付が終了。応募は1.89%にとどまり、TOB不成立

公開資料および弊社データベースより編集部作成

1審の東京地方裁判所(東京地決平成19年6月28日)も2審の東京高等裁判所(東京高決平成19年7月9日)でも、「ブルドックソースによる区別的な新株予約権割り当ては適法」と判断し、差止め請求を棄却しました。

当然のことながらスティール側は納得せず最高裁判所へ抗告したため、最高裁が最終判断をすることになりました。

2.最高裁判所の判断

スティール側は、「株主平等原則違反」(会社法109条1項)と「著しく不公正な方法」(会社法247条2号)を主張しましたが、結果として最高裁もスティール側の許可抗告を棄却しました(最決平成19年8月7日)。

2-1.「株主平等原則違反」の主張に対する判断

スティール側は、本件のように新株予約権の行使条件が株主によって区々となるのは、「株主平等原則」に違反すると主張しました。

会社法109条1項では、「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない」と定めています。株主平等原則は会社法の基本的なルールなので、これに反する決議は認められません。

本件では株主であるにもかかわらず、スティールにのみ内容の異なる新株予約権を割り当てられたため、株主平等原則に違反する、と主張しました。

これに対し最高裁は、以下のように判断しました。

・新株予約権無償割り当ての際にも、株主平等原則の趣旨は及ぶ
・株主の利益は会社の発展によって実現されるものである
・会社の存立、発展が阻害されるなど企業価値が毀損されるおそれが高い場合には、危険の防止のために「合理的な範囲で株主を区別して取り扱っても公平の理念に反しない」
・特定株主による経営支配権の取得によって会社の企業価値が害される可能性が危ぶまれる場合には、判断の正当性を疑わせる重大な瑕疵がない限り、株主の判断が尊重されるべき

本件では株主総会の手続きに特段の問題もなく、瑕疵は存在しませんでした。また株主の83.4%が新株予約権の無償割り当てに賛成しており、大多数の株主がスティールによる株式保有によって企業価値が害されると危惧しているといえる状況でした。

さらにスティール側には新株こそ割り当てられないものの、ブルドックソース側へ新株予約権の譲渡を申し入れれば株式相当額である「1個につき396円の対価が支払われる」という補償も用意されていました。

このような事情からすると、スティール側に不当な不利益が及ぶとまではいえず、ブルドックソースの株主の判断が尊重されるべきであるといえます。

以上より最高裁は「差別的な新株予約権の割り当てが株主平等原則に反しない」と判断しました。

なお原審ではスティールが「濫用的な買収者*」であることを問題として新株予約権割り当てを適法と判断した経緯がありましたが、最高裁は「(スティールが)濫用的権利者であるかどうかにかかわらず適法」と判断しています。濫用的な株主かどうかは、差別的(区別的)な新株予約権割り当ての適法性に影響しないということになります。

*濫用的買収者とは、会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、専ら当該会社の株価を上昇させて当該株式を高値で会社関係者等に引き取らせる目的で買収を行う者のこと。厳密には法律用語ではない。

2-2.「著しく不公正な方法による」という主張に対する判断

またスティール側は、本件の差別的な新株予約権割り当ては「著しく不公正な方法」なので認められないとも主張していました。

会社法247条2号では、「次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第238条第1項の募集の決定に係る新株予約権の発行をやめることを請求することができる。(①省略)②当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合」と定めています。

スティール側は、事前の定めなく買収防衛策を発動すると株主は予想外の不利益を受けるので、本件の新株予約権割り当ては、著しく不公正な方法ではないかと主張したのです。

ブルドックソース側は公開買付けが始まってから突然新株予約権割り当てを決定しており、あらかじめ買収防衛策についての定めをしていませんでした。

裁判所はこの点に対し、以下のように判断しました。

・そもそも事前の定めがないからといって、敵対的買収への対応策が許されないというものではない
・本件では、突然公開買付けが実行されてスティール側による経営支配権取得が現実化したので、ブルドックソース側も早急に対応する必要があった
・そういった状況下において、企業価値の低下を防ぎ、株主の共同の利益を守るために新株予約権割り当ての決議をしたとしても、著しく不公正とはいえない

このような理由により、スティール側の「事前の定めがなかったので新株予約権割り当てが著しく不公正である」という主張も排斥されました。

3.本件から学べること

本件は既存株主に対する新株予約権の割り当てによって敵対的買収を阻止できるか、という点について判断された重要な事例です。

この最高裁の判断がリーディングケースとなり、今後TOBが行われたときにも「多数の株主の賛成があれば、既存株主と買収会社とで内容の異なる新株予約権を発行しても基本的には適法」と判断されやすくなるでしょう。また買収会社に濫用的な意図があるかどうかも問題にならないため、被買収企業にとって有利な判断といえます。

同じく敵対的買収の場面で買収防衛策の有用性が問われたニッポン放送の事案も、機会があれば取り上げてみたいと思います。

文:福谷陽子(法律ライター)/編集:M&A Online編集部

慣習に倣い、文中の判例は全て和暦で表記しております

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福谷 陽子 (ふくたに・ようこ)

法律ライター 元弁護士

京都大学法学部卒業
10年の実務経験を積んだ後ライターに転身し、現在は各種法律記事を中心に執筆業を行っている。弁護士時代は中小企業法務や一般個人の民事事件を中心に取り扱っており、その経験を活かし法律ライターとして活躍中。


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