事業領域を拡げるためにM&Aを活用する企業が増えているものの、多くの企業が必ずしも資本コストを満たす収益を上げていないー。こうした現状を踏まえ、図解&ストーリー「資本コスト」入門 改訂版を書き上げた岡俊子さんに、改訂の狙いや新型コロナウイルスがM&Aに与える影響などについて聞いた。 

資本コストは努力目標

―2019年1月に「資本コスト」入門を出版されて、今年8月に改訂版を出されました。改訂にいたった経緯や狙いは。 

おかげ様でこの1年ほどで6刷を重ね、多くのみなさんに買っていただき、ありがたく思っています。前回は時間が限られており、心残りの部分がありましたので、今回はできるだけ満足のいく形にしたいなと思ったのが、改訂版発行に踏み切った一番大きな理由です。 

―前回の書籍についてはどのような反響がありましたか。 

多くのメールをいただきました。「分かりやすい」とか、「今まで断片的にしか知らなかったことがつながってきて腹に落ちた」などの言葉が多かったですね。専門用語の一つひとつは分かっていても、それらがつながっていなかったので頭の中で定着していなかったのが、つながることで理解しやすくなったということのようです。 

―心残りの部分があったとのことですが、今回拡充されたのはどの部分でしょうか。 

資本コストはコストという名前がついているので、費用と思われがちなのですが、株主や債権者らの、お金を提供する人たちへのリターンなのです。「これくらい収益を上げてもらわないとお金を出す意味がないですよ」「資本コストは努力目標なのですよ」といったような点を強調しました。 

掲げた目標の結果についてはROIC(投下資本利益率)でみるのが一番分かりやすいと考えており、今回はROICの解説を拡充しました。前回はROE(株主資本利益率)やROA(総資産利益率)などについて多くを書いていましたが、今回はその部分はバッサリと削って、ROICに多くのページを割いています。

これから、さらにM&Aが増えていく  

―M&Aに関しても多く書かれています。特に「日本では企業が成長するためには、もはやM&Aしか選択肢がない」と指摘している部分は印象に残りました。 

最近、本当にそのように思っています。環境の変化がありますので、事業にはどうしても寿命があります。事業を入れ替えるしかないのですが、どうやって事業を入れ替えるかというと、自分で事業を作るか、M&Aで手に入れるしかありません。 

自力か他力かなのですが、「自力ではこの20年できなかったんでしょ。だったらM&Aを使うしかないでしょ」ということです。 

なぜ自力で新規事業を育成できなかったというと、大企業ではどうしても新規事業がつぶされてしまうという現象があります。目の前のキャッシュをあげてくれる既存事業にフォーカスがあたりますので、新規事業には多くの投資資金がまわってこないのです。今の日本の大企業は新規事業を生み出す力が弱まっていると言えます。 

そのようななかで、ベンチャー企業は0を1にするのが役割、大企業は買ってきたビジネスモデルを大きくするのが役割といった分業が日本でもできつつあります。 

米国ではシリコンバレーが0を1にして、それを大企業がいくつかの段階を経て大きくするという流れができ上がっていますが、その流れが日本でもできつつあります。 

―新型コロナウイルス感染症拡大によって、多くの企業が業績不振に陥っています。分業の流れに影響はないのでしょうか。 

もちろん影響はありますが、M&Aは減っていません。むしろコロナの影響で自分たちだけでやっていくのは大変。でも社会に貢献する事業は残したいとして、売却や提携の動きがでてきています。これからは、さらにM&Aが増えていくのではないでしょうか。