前回の続きだが、KPIの再設計によって、子会社からの経営報告の質が上がり、経営の内情が分かったとして、それで終わりかというそうではない。親会社と子会社の間には、しかるべきルールが必要だ。本稿では、それを「子会社ガバナンス」と呼ぶ。例えば、投資に関して親子間の一定のルールがなければ、子会社は親会社の意に沿わない投資を行ってしまう可能性がある。

「規律」と「動機づけ」のバランスをどう整えるか?

一般的に言われる「ガバナンス」は、取締役と執行役の分離、社外取締役の設置など、いわゆるコーポレートガバナンスを指すことが多い。企業の長期的な企業価値向上には持続性の観点が重要だ。企業内の不正防止の仕組みづくり、事業上のリスクに対する対応、利害関係者とのパワーバランスなど、検討すべきことは多い。

一方、「子会社ガバナンス」は、企業の成長性の観点によるものだ。思い描いた戦略を円滑に実現するための親子間のルールである。子会社に対する規律と動機づけのバランスといっても良いだろう。このバランスが整っていないと、当初のM&Aの目的は達成し難い。ルールを厳しくし過ぎれば、子会社の良さが活かせない。甘くし過ぎれば、子会社に対してコントロールが効かないからだ。

今回は、この「子会社ガバナンス」について述べる。実は、子会社ガバナンスは、対象企業の買収前に方針は決まっているのが望ましい。本連載の第1回で述べたとおり、M&Aプロセスは、M&A戦略フェーズ、ディールフェーズ、PMIフェーズの3つに分けられることが多い。このM&A戦略フェーズ、ディールフェーズで、子会社ガバナンスの方針はおおよそ決まっているべきだ。

<図1>子会社ガバナンスの検討フェーズ

図1のように、M&A戦略フェーズでは、M&A戦略に応じた対象企業への期待が明確になっているはずだ。また、ディールフェーズでは、デューデリジェンスを通して、対象企業の力量や、自社との違いの見極めができているはずだ。これらの材料があれば、対象企業に課すガバナンス、つまり、買収後の子会社ガバナンスに関して、方針は決められる。