M&Aにおいて、買収企業と被買収企業の企業文化の違いが取り沙汰されるのはなぜか?それは、企業文化によって、採り得る戦略が変わるからだ。買収後の戦略がいくら明確にあっても、それを実行できなければ意味はない。ゆえに、M&A後には、戦略を実行しやすい企業文化を両社間で形成していく必要がある。

そこで、今回は、戦略に適合した企業文化を形成するためのtips(ツボ)を述べる。企業文化は、組織の価値基準を基にして、その組織の人材の行動パターンの累積によって醸成されていく。しかし、ポストM&Aにおいて、企業文化が自然と醸成されていくのを待っている時間はない。M&Aを活用した戦略の実現に向けて、しかるべき企業文化の形成を狙って促していくべきだろう。

「成功体験」の創出と腹落ち感

あるときは、親会社の企業文化に染めることが有効かもしれないし、あるときは、親会社と子会社で新たな企業文化をつくりあげていくことが有効かもしれない。どのような企業文化が適当かは、M&A後のビジョン、戦略に依る。ただどちらにせよ、これから企業文化を形成するには、両社が交わることによる「成功体験」の創出と、それによる腹落ちが必要だ。

企業文化は直接的に変えることは難しい。関係者の納得を前提に、自発的に自分たちで変わっていくしかない。これまでの行動パターンを見直し、新たな環境に適応していこうとするには、本人たちの腹落ち感が重要だ。他人からあれこれ指示・命令されると、抵抗感が生まれてしまう。自分たちで考えてやってみて、それが上手くいったときに初めて、人間は腹落ちする。

今回は、「成功体験」をいかに創出するか、腹落ちをいかに醸成するか、3つのポイントをご紹介したい。1つ目がGoal、2つ目がProcess、3つ目がShareだ。ポストM&Aにおいて組成されるあらゆる分科会で汎用的に使える考え方だ。

Goal→阿吽の呼吸は通じない

1つ目のGoal。まずは、親会社と子会社の共通目的を設定する。「そんなことはとっくに出来ている。共通目的の認識は既にそろっている」と思われた方もいるかもしれない。しかし、それが“つもり”になっている企業が多いことも事実。出自の異なる者同士、阿吽(あうん)の呼吸は通じない。共通目的は、分かりやすい言葉でしっかり可視化することが重要だ。

また、間違っても親会社から一方的に「目的」を押し付けてはいけない。まずは関係者が感じている問題点をあげてもらう。すると、出自が異なるメンバー間でも共通で感じている問題があったり、独立した問題に見えても因果関係が見えたりしてくる。そしてこれらの問題が解決できたら、どんな嬉しいことがあるか、どんなメリットがあるかを見出していく。それを基に共通目的を設定するのだ。

Process→その肝は論点設計

2つ目のProcess。目的に向けて議論を行う際は、どのような手順で何を検討していくか、“議論に入る前に”設計して、メンバー間で合意する。社内プロジェクトが上手くいかない原因は、「今何をやっているのか分からない」というメンバーが出てきてしまうことである。今やるべきことが分からず迷子になってしまうと、人間はモチベーションが下がり、主体性を失ってしまう。

Processにおいて肝となるのが論点設計。論点とは「目的達成のために答えるべき問い」である。問いの仕方ひとつで会議の方向性が変わる。その問いが“良い問いか否か”を判断するには、その問いに対して、自分で仮説としての答えが出せるか検証することだ。もし、自分で答えを想定できないのであれば、問いを出されたメンバーも答えられないと心得て、問いを再考すべきだ。

Share→ホワイトボードの効用に着目せよ

3つ目のShare。知っている事実や集めたデータ、そして各人の考えを共有していくこと。出自が異なるメンバー同士で議論をすると、共通言語がない、仕事のやり方が違う、優先度が違うなどの理由で、“議論の空中戦”に陥りやすい。空中戦を避けるためには、各々の頭にあるイメージを可視化して共有することが大事だ。共有は丁寧すぎるぐらいがちょうどよい。

ここで威力を発揮するのがホワイトボードだ。「たかがホワイトボード」と言う人は、残念ながらその効果を分かっていない。リアルタイムで議論を可視化して、議論の発散と収束の軌跡が残せるため、最強のShareツールと言える。また、ホワイトボードを使えば、視線がホワイトボードに行き、ホワイトボードに書かれた事実や意見を見ながら議論するため、安易な対立構造を回避できる。

以上、「成功体験」を創出し、腹落ちをいかに醸成するかについて、3つのポイントをご紹介した。ポストM&Aにおいては、いかんせん議論の迷子が生まれがちだ。ポストM&Aを成功させるためには、自分たちのGPS(Goal,Process,Share)を持とう。

文:経営コンサルタント、MAVIS PARTNERS代表 田中 大貴