【検証】HISのハウステンボス売却額1000億円は高いか安いか

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ハウステンボス(長崎・佐世保)

HISがハウステンボスを香港系ファンドに譲渡へ

エイチ・アイ・エス(HIS)<9603>が子会社のテーマパーク「ハウステンボス」の株式を香港系ファンドに譲渡する交渉が進んでいます。

交渉は詰めの段階に入っている模様で、日経新聞の報道によれば少数株主の分と合わせ90%~100%譲渡、取引総額1,000億円前後となる見込みのようです。(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC215IC0R20C22A7000000/

HISは、本業の海外旅行代理店がコロナ禍で大打撃を被ってしまったため、事業の立て直しのため資金が必要となったことから子会社であるハウステンボスを売却することとなったのであろうとの推測から、一部では「“ハゲタカファンド”に足元を見られて安く買いたたかれたに違いない」などという見解がある一方で、会社更生法適用後も長年赤字体質を脱却できなかったハウステンボスを見事に立て直し、大きな利益を得て売却するのですから、「投資としては大成功だ」という称賛の声もあるようです。

そこで本稿では、このハウステンボスへの投資は成功案件なのか、また「株式90%~100%で1,000億円」という売却価格が高いのか安いのかを検討してみたいと思います。

幾何平均収益率で見ると投資は「大成功」

投資の評価は一般的には「幾何平均収益率(投資中の追加投資や部分回収がない場合にはIRRと一致)」で行います。

HISがハウステンボスを買収したのは、同社の2010年9月期有価証券報告書によると2010年4月で、見込み売却時期は交渉次第ですがおそらく2022年中と思われ、仮に2022年の12月末に売却すると投資期間は12.7年となります。取得原価は同社の2010年9月期有価証券報告書によれば2,000百万円(20億円)でした。これをもとに幾何平均収益率を計算すると下表のとおり31.9~33.0%となります。

HISのハウステンボス投資幾何学平均収益率の推計
©筆者作成

一般に、投資ファンドにおいて合格点とされる幾何平均収益率は15%前後ですので、約32~33%という幾何平均収益率は投資案件として「大成功」と言えるでしょう。

類似会社との比較では「かなり割安」

他方、純粋にハウステンボスという会社について、現時点の値段として報道されている1,000億円前後という売却額が妥当であるかは同業他社の株価指標と比較してみる必要があります。

今回のケースは支配持分が変動するM&A取引になりますので、理想的にはEV/EBITDA倍率で比較したいところですが、ハウステンボスの減価償却費などEV/EBITDA倍率算定に必要なデータは非開示のため、ここではハウステンボスの公表情報で算出可能なPER、PBRを用いて比較することとします。

まず、アミューズメント関連事業の代表的な6銘柄(オリエンタルランド、富士急行、常盤興産、ラウンドワン、イオンファンタジー、東急レクリエーション)の進行期会社予想基準PER、コロナ前回復想定PER、PBRを見てみます。

アミューズメント施設関連銘柄のPER、PBR
©筆者作成

銘柄ごとにばらつきは大きいですが、平均をとってみますと、進行期予想EPS基準のPERで116.6倍、コロナ直前期のEPS回復を想定したPERで84.0倍、PBRで5.0倍という水準が同業他社の評価水準となっています。

これに対して、ハウステンボスの業績と進行期予想PER、コロナ直前期回復想定PER、PBRを見てみると、以下の通りとなります。

ハウステンボスの進行期予想PER、コロナ前回復想定PER、PBR
©筆者作成

進行期予想PER約51~57倍、コロナ前回復想定PER約25~28倍、PBR2.6~2.8倍と、同業他社の平均水準と比較するとだいぶ割安な水準といわざるを得ません。

表4 類似会社との株価指標比較

ハウステンボス 同業他社平均
進行期予想PER
51~57倍
116.6倍
コロナ前回復想定PER
25~28倍
84.0倍
PBR
2.6~2.8倍
5.0倍

もちろん、企業買収においては、デューデリジェンスを行って非公表情報も受領したうえで詳細にリスクを検討し、マルチプル法のみならずDCF法なども使用して価格交渉が行われるのが通常ですので、公表情報からは知りえない同業他社に比べて大きなマイナス要因が隠れている可能性もありますし、下半期の見込み利益が上期の水準を大きく下回り通期の純利益がもっと低い額である可能性もありますから、開示情報だけで算出したPERの類似会社との比較だけで一概に高い安いと言い切れるものではありません。

しかし、少なくとも開示情報から外部の一般投資家が分析できる範囲では、「かなり割安」ということにはなるでしょう。

コロナさえなければ、より適切な評価水準でさらに多額の売却益を計上できた可能性が高いということですから、HISの株主は忸怩たる思いかもしれません。

しかし、だからと言って資産を抱えて資金ショートになってしまっては元も子もありませんから、結局は受け入れざるを得ない、ビジネスジャッジメントとしては妥当な譲渡価格というところではないかと思います。

文:巽 震二(証券アナリスト/フリーランス・マーケットアナリスト)

※本記事に記載されている個別の銘柄・企業名については、あくまでも執筆者個人の意見として申し述べたものであり、その銘柄又は企業の株式等の売買を推奨するものではありません。

巽 震二 (たつみ・しんじ)

フリーランスマーケットアナリスト。
証券アナリストとして大手証券会社調査部勤務後、専業個人投資家に転身。
アベノミクスの波に乗って2015年、目標資産残高を達成し、トレーディングもめでたく卒業。 現在はフリーランスマーケットアナリストとして活動中。本連載はペンネームで寄稿している。


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