【株価検証】GCAのTOB価格は高いか安いか

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GCAプレスリリースより引用

M&A助言会社のGCAに米投資銀行がTOB

2021年8月3日、投資銀行・M&Aアドバイザリー事業を運営するGCA<2174>は、米国の投資銀行フーリハン・ローキー(Houlihan Lokey)による株式公開買い付け(TOB)の適時開示を行い、同時に賛成意見を公表し株主に応募を推奨しました。

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TOB価格は、普通株について、1株1,380円です。公表前日8/2の終値1,051円に対し31.3%のプレミアムとなっています。スクィーズアウトを伴う100%買収を想定しており、TOB応募が既存株主の2/3超に達すれば残りの既存株主は保有継続は事実上不可能で、TOBに応募するか、スクィーズアウトの際に反対株主として買い取り価格決定訴訟を提起して価格の上積みを求めて争うかの2択となります。

さて、このTOB価格は適正水準でしょうか。

プレミアムの水準感としては一般的水準の下限値付近

一般に、スクィーズアウトを伴うTOBの場合、プレミアムは(情報漏洩等により株価が事前に上昇し始めていなければ)30%~40%程度となるケースが多く、今回の31.3%というプレミアムは水準感としては下限に近いものの一般的レンジの範囲に入っていると考えられます。

同業他社のPERと比較するとかなり割安感がある

一方、PERを見てみると、TOB公表と同時に適時開示された業績予想の上方修正によると、会社予想通期EPSはIFRS基準で77.08円ですので、TOB価格1,380円はPER17.9倍に相当します。

この水準を、独立系M&Aアドバイザリーファームの3社のPERと比較してみますと、以下の通り、日本M&AセンターはPER85倍と突出して高く、ストライク・M&Aキャピタルパートナーズは37倍~36倍となっています。これに対してGCAのTOB価格ベースのPERはわずか17倍ですから、かなり割安な水準であると考えられます。

©筆者作成

このPERの格差は、どこからきているのでしょうか。

PERの恒等式(PER=株価/EPS、ROE=EPS/BPS、PBR=株価/BPSから、PER=PBR/ROEとなる)から考えると、PBRが大きいほど、ROEが低いほどPERが高くなります。

ここで、ROEは、現在の企業の実力と考えることができ、PBRは、市場の企業に対する成長期待と考えることができます。したがって、実力に対して成長余地がどれほど大きいと市場から見られているかがPERに反映されていると考えられます。

実力のある会社ほど成長力が高いとみられるM&A業界

ここで、ROEを比較してみますと、ROEが高い順にPERが高くなっています。よって、M&A業界に関して、市場は実力のある会社ほど成長力が高いという見方をしていると示唆されます。

GCAの場合、他の3社が国内M&Aを中心としているのに対して、主力がクロスボーダー取引であるという違いがあります。

一見、成長期待の低い日本国内マーケットより、グローバルなクロスボーダー取引を対象にしたほうが成長期待が高いように思えます。

しかし、M&A市場の構造を考えると、日本企業は外国資本による買収を嫌がる傾向があること、また、日本企業が外国企業を買おうとする場合は、言葉の壁や距離の壁、時差の壁により、買収後の円滑な事業運営が格段に難しくなることから、取引当事者のどちらかが日本企業である場合のクロスボーダー取引の潜在的市場規模は実は日本国内のM&A市場よりも小さいとみられ、今後の拡大期待も日本国内取引では団塊世代の経営者の引退に伴う事業承継等のニーズや、人口縮小社会への対応のための事業再編などのニーズが期待できます。

一方で、クロスボーダー取引に関してはそのような需要要因が見込まれないため、結果的に市場の成長期待が低くなっていると考えられます。

しかし、今回の場合、買収者は米国の投資銀行であり、日本と米国とのクロスボーダー取引の拡大を目論んでの買収とみられますので、通常のケースよりは大きなシナジーが期待できるはずです。であるとすれば、いかにクロスボーダーマーケットの成長期待が相対的に低いとはいえ、国内マーケット中心の同業他社のPERの半分程度で買えてしまうというのは、かなり安い買い物なのではないでしょうか。

買収者フーリハン・ローキーの株価

買収者のフーリハン・ローキーは米国市場に上場していますので(証券コード:HLI)、GCA株のTOB価格に不満のある既存株主は、GCA株式の売却資金をフーリハン・ローキーの株式に投資してみるのも面白いかもしれません。

同社の株価は、5月半ばから強い上昇トレンドに乗っており、5/11日の終値65.89ドルから8/2の89.96ドルまで上昇しました。TOBが公表された3日は市場はいったんネガティブな反応を見せ、83.63ドルまで下落しましたが、翌日には見直し買いが入り、8/5は86.71ドルまで戻してきているという状況です。

少なくとも、GCAに高い成長を期待しており、TOB価格が割安であると考えるならば、反対株主として買い取り価格決定訴訟を提起するよりは期待値の高い投資になるのではないかと思います。

文:巽 震二(証券アナリスト/フリーランス・マーケットアナリスト)

※本記事に記載されている個別の銘柄・企業名については、あくまでも執筆者個人の意見として申し述べたものであり、その銘柄又は企業の株式等の売買を推奨するものではありません。

巽 震二 (たつみ・しんじ)

フリーランスマーケットアナリスト。
証券アナリストとして大手証券会社調査部勤務後、専業個人投資家に転身。
アベノミクスの波に乗って2015年、目標資産残高を達成し、トレーディングもめでたく卒業。 現在はフリーランスマーケットアナリストとして活動中。本連載はペンネームで寄稿している。


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