免除制度…運用手続きの“線引き”を注視

ー事前届け出免除制度の対象範囲は政省令で規定することになっていますが、注視すべきポイントは。

 その際、指定業種のうち、国の安全を損なうおれそが大きいものは対象外となる。例えば、武器製造や原子力、電力、通信などが想定されている。「国有企業等」も対象外とされているが、政府の影響下にあるファンド、年金基金でも国の安全を損なうおそれがないと認められるものは利用できるように軌道修正された。その中で、母国がどこかということが考慮されることがあるのか、といった点に関心を持っている。

免除制度を利用する外国投資家は、①役員に就任しない、②重要事業の譲渡・廃止を提案しない、③非公開の技術情報にアクセスしないーの3つの基準を守らなければならないとされている。外国投資家の中でも証券会社や銀行、運用会社が行う取引、つまり投資先の経営に関与しないポートフォリオ投資は対象銘柄に関わらず、免除される。

ただ、外国運用会社であっても、例えば、どの範囲のヘッジファンドやPE(プライベート・エクイティ)ファンドが銘柄に関わらず、免除制度を使えるかどうかについて必ずしも明確になっているわけではなく、まだ不確実性が残る。どういった線引きになるのか注視している。

「非公開の技術情報」とは何か?

大川 免除制度を使う際の基準の一つとして、非公開の技術情報にアクセスしないことが示されている。しかし、現時点で国の安全等にかかわる非公開の技術情報が何かということは明らかにされていない。

そのまま投資管理の文脈で使用されるかどうか分からないが、外為法では貿易管理の文脈において役務取引という考え方があり、一定のリスト規制技術を非居住者に提供する場合、事前に経産省に許可を得なければならない。しかし、役務取引の文脈でも、地図情報とか、AI(人工知能)はそれ自体ではリスト規制技術の対象となっていない。超先端技術に関して、いわば抜けがある状態。軍事上機微で、将来的にリスト規制技術になり得るものをどうやってカバーするのか、大変注目している。

ー外為法改正は日本のM&A市場にも影響がありますか。

 影響があると思っている。地理的、歴史的にも日本市場に興味を持つ有力な出資者として中国を置いては語れない。その分、規制強化で最も影響を受けるのは中国の投資家と考えられる。中国の投資家だと、政府系資金が入っている場合などが少なくないことから、事前届け出免除が利用できないケースも出てこよう。

また、中国以外の投資家についても、(大量保有報告制度の)5%ルールの対象にならない範囲で株を取得する際に、1%以上ならその段階で改正外為法にひっかかるので、動きづらくなることも予想される。

ここへきて事前届け出審査が厳格化

大川 過去に外為法上の中止命令が出たのは2008年、英投資ファンドによるJパワー株式の買い増し(9.9%→20%)の1件だけにとどまる。

しかしながら、最近の傾向として事前届け出審査が厳しくなったと感じている。届け出に先立ち、事前相談・質問票への回答を求められる案件が増えている。それもかなり細かな内容に及び、事前の相談や質問票への対応に1~2カ月、時には3カ月以上かかっている。経験上、中国系企業や投資ファンドは時間がかかる傾向にある。VC(ベンチャーキャピタル)投資でも一定の時間を要した実例がある。とくに機微業種への投資は早めの対応が求められる。

ー事前届け出の要否を判断できるよう、上場企業の銘柄別にリストが作られます。

大川 全上場企業について「不要」「免除可」「必須」のいずれかに分類される。外国投資家はこのリストに依拠することになる。ただ、難しい問題もある。例えば、リスト上、「不要」に分類されているが、新規に進出した事業が届け出業種だったり、グループ企業が実は届け出業種を手がけていたり、といったケースが当然ある得る。最新情報に基づくアップツゥーデートなリストをどうやって保持・更新するのかは課題だ。

本記事は、2019年11月のインタビューをもとに作成しています。

東 陽介(ひがし・ようすけ)弁護士
森・濱田松本法律事務所 東京オフィス パートナー
2004年東京大学法学部卒業、06年東大法科大学院修了、07年弁護士登録。12年シカゴ大学ロースクール修了、13年ニューヨーク州弁護士登録。M&A、プライベートエクイティ、ジョイントベンチャー及びスタートアップ投資が主な業務分野。外為法を含む各国外資規制にも詳しい。

大川 信太郎(おおかわ・しんたろう)弁護士
森・濱田松本法律事務所 東京オフィス アソシエイト(2019年11月当時)
2015年東京大学法学部卒業、16年弁護士登録。クロスボーダー案件を中心にM&A、通商、コンプライアンス業務を扱う。外為法について、投資管理に加え貿易管理の観点からも知見を持ち、米国における規制(FIRRMA、EAR・ITAR)にも詳しい。

聞き手・文:M&A Online編集部 黒岡 博明