こうした壊滅的な状況に陥らないためには、行政の支援が欠かせない。企業経営者が「ストックデールの逆説」に見られるような「心が折れる」状態にならないサポートを急ぐ必要がある。補助金の交付や運転資金の融資をはじめとする早期の経営支援が重要なのは間違いないが、現状のシステムで欧米諸国のような「申請したら3日後には入金」という対応は不可能だ。
しかし「いくら電話をしてもつながらない」「窓口は長蛇の列」という状況では、「生きるか死ぬか」の瀬戸際に追い込まれた経営者の「心が折れる」後押しをしているようなものだ。行政は十分な電話回線を確保し、ボランティアを含めて経営者の相談に乗るコールセンターの拡充を急ぐべきだろう。
実は21世紀に入ってからは、中小企業の内部留保は頭打ちながらも高止まりの状況にある。経営支援策の問い合わせをしている企業が、すべて経営危機に直面しているわけではない。コールセンターで経営状況を聴き、深刻な事態に陥っている企業を最優先で窓口に案内する仕組みを作る。「トリアージ」が必要なのは、病院だけでない。企業支援の現場も同様なのだ。
次に「まだ余裕があるうちに廃業」を選択する企業対策だ。こうした企業の多くは「コロナ禍」という一時的な要因が収まれば、再び利益を出せる優良案件。みすみす廃業させると地域経済の痛手になると同時に、日本経済にとってもボディブローのように効いてくる減速要因となる。
企業が自主廃業を選択しても事業自体を残すM&Aの促進策や仲介窓口の拡充が必須だ。事業がM&Aで存続すれば、雇用やサプライチェーンは維持される。
M&Aであれば企業や事業の売却益を得ることができる。「コロナ禍」という逆風にさらされながらも余裕がある事業ならば、買い手がつく可能性は高い。行政の施策を待たずとも、M&A仲介会社や取引金融機関に直接相談する方法もある。
ストックデール元海軍中将は「ここから出られるだけでなく、最後には必ず勝利を収めて、この経験が人生の決定的な出来事となり、あれほど貴重な体験はなかったと言えるようになるとの確信を失わなかった者が、過酷な捕虜生活から生還できた」と語った。緊急事態宣言という「捕虜生活」を余儀なくされている企業経営者も同じだろう。
文:M&A Online編集部