M&A法制を考える インフロニアによる東洋建設のTOB不成立にみるTOB規制の課題

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東洋建設(東京都内で撮影)

公開買付者によるTOB期間における市場内買付けに対する規制

公開買付者によるTOB期間中における競合者による「市場内買付け」が過去に話題となったのは、2005年のフジテレビによるニッポン放送株式のTOB期間中におけるライブドアによる「市場内買付け」や2006年のイオンによるオリジン東秀株式のTOB期間中におけるドン・キホーテによる「市場内買付け」のケースである。2006年(平成18年)に法改正され、他者によるTOB期間中、3分の1超の株式を保有する株主は、市場内で5%超の買付けを行うときは、TOBによらなければならないとされた(金融商品取引法27条の2第1項5号、競合買付規制)。これは、「買収者間の公平」という新しい目的をTOB規制に持ち込むものといわれている。もっとも、「3分の1超の株式を保有する株主」に限定した理由は、理論ではなく、上記ケースで競合者が3分の1超の株式を保有する株主であり、また、TOBの義務が発生するのが3分の1超のときである(同27条の2第1項2号)からといわれている。

しかし法改正の直後、王子製紙による北越製紙株式のTOB期間中における日本製紙グループによる「市場内買付け」のケースがあり、日本製紙グループが「3分の1超の株式を保有する株主」でなかったため、競合買付規制の意味が問われることになった。もっとも、これはM&A法制をどう捉えるか、すなわち、「アクティビストを考える(下)アクティビスト株主によるCreeping Acquisitionと買収法制」でれたように、支配権の取得は、欧州のように全てTOBすべきか、米国のように自由であるものの、買収防衛策を許容すべきか、という問題を解決しなければならないため、今後の課題とされた。その結果、その後も、3分の1超の株式を保有する株主でない競合者による「市場内買付け」は枚挙にいとまがない。

一方、その際に議論になったのが公開買付者への規制である。公開買付者は、TOB期間中、TOBによらないで対象会社の株式を買い付けることが禁止されている(金融商品取引法27条の5、別途買付けの禁止)。また、公開買付者は、TOB開始後、TOBの撤回を行うことを原則として禁止されている(同27条の11)。さらに、TOB価格の引下げ、TOB予定株式数の減少、TOB期間の短縮など株主に不利となる変更はすることができない(同27条の6)。

欧米における競合買付規制

米国では、制度としてのTOBはなく、判例法上、TOBに該当するか解釈されるが、連邦証券規制には、「買収者間の公平」という目的があるとは考えられていない。もっとも、TOBの撤回禁止規制に相当するルールも存在しないため、公開買付者は、会社と交渉することによって、TOBの撤回条件を定められる。したがって、公開買付者は、競合者による「市場内買付け」があった場合には、TOBの撤回を行うことができる。また、TOBに関して相場操縦的な行為を行うことは違法であるという規制があるため、資金調達の予定もなしに相場操縦目的でTOBを利用することは禁止されている。したがって、競合者による、いわゆる「予告TOB」は、そのような目的が認定された場合には、違法となる。

また、欧州では、市場内外を問わず30%以を超える議決権を取得した者は、残存株主にTOBすることが義務付けられているが、公開買付者がTOBを行って30%超の支配権を取得した場合にはTOB義務が免除されるため、多くの場合には全株式を対象とする任意のTOBが行われ、一定割合を超える株式の取得はすべてTOBによらなければならないため、「買収者間の公平」も確保される。そして、イギリスやドイツでは、公開買付者によるTOB期間における競合者による「TOB」があった場合には、当初のTOB期間が競合者によるTOB期間まで延長(シンクロナイズ)され、株主は当初の応募を取り消すことができる。

吉村一男 (よしむら・かずお)

フィデューシャリーアドバイザーズ 代表
上場事業会社、大手証券会社の投資銀行部門を経て、現職。平時の株主価値向上のコンサルティング業務、株主総会におけるアドバイザリー業務、M&Aにおけるアドバイザリー業務、投資業務などに従事。早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター(WBF)の招聘研究員に嘱任し、企業法とファイナンスに関する研究に従事。著書は、「構造的な利益相反の問題を伴うM&Aとバリュエーション―理論と裁判から考える現預金と不動産の評価―〔上〕〔下〕」旬刊商事法務2308号・2309号(共著、2022年)、「米国の裁判から示唆されるわが国のM&Aプラクティス」MARR330号(2022年)、『バリエーションの理論と実務』(共著、日本経済新聞出版、2021年・第16回M&Aフォーラム正賞受賞作品)、『論究会社法‐会社判例の理論と実務』(共著、有斐閣、2020年)など多数。

フィデューシャリーアドバイザーズ HP(https://fiduciary-adv.com/


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