「どうやってお客さんの本音(真意)を引き出すのですか?」

金融機関向けセミナーや勉強会を開いた時に、しばしば聞かれる。答えは簡単。徹底的に聞き役に徹すること。それ以外にない。言葉にするのは簡単だが、実践してみるとかなり大変である。こちらが話したいことがあっても黙って聞く。我慢、我慢である。

単刀直入に「御社の後継者はどなたですか?」とだけ聞く

中小企業の経営者は有能な方が多い。だからこそ、長年にわたり会社を経営してきたわけである。海千山千の経営者は最初から本音で話さないケースの方が多い。ましてや事業承継のようなデリケートな話となればなおさら。これは読者の皆様にもご理解頂けるであろう。

我々、M&Aアドバイザーでも最初から先方の本音を引き出すのは極めて難しいのである。私は、面談中愛想笑いはしませんし、緊張を解きほぐすようなアイスブレークも一切しない。単刀直入に「御社の後継者はどなたですか?」とだけ聞く。

大半の社長は「息子にしようと思っている」とか「古参の取締役を後継者にしようと思っている」と言う。これに対する回答は「ああ、そうですか。それは良かったですね」。

ただし、それを鵜呑みにするのは早急。なぜなら優秀な経営者(社長)は、今までの経験から将来の見通しや、自社の置かれている立場についてはいつ何時も「コンサバ」、あるいは「不安」なのです。

「傾聴」の姿勢を貫くこと

「気の優しい息子がこの厳しい世界でやっていけるのだろうか」「自分がしてきた苦労と同じ苦労を子供にはさせたくない」「借入金の返済の目途がたっていない。そんな会社を子供というだけで継いでくれと言ってもいいのだろうか」等々…心のどこかで常に引っかかる何かがあるのです。でも、そんな姿は誰にも見せず日々、経営に没頭し、社長という鎧を着ているのです。

優秀なアドバイザーやブローカーはそういった経営者の不安や悩みを吐き出してもらわないと何も始まらない、ということをわかっている。だから、「話を聞く側」に徹する。事業承継には引き出さなければならない情報がたくさんある。

また、経営者自身が認識していない問題点が隠れているケースもある。「傾聴」の姿勢を貫くことができれば自然と本音(真意)に近づく、と私は常々考えている。

「先送りが悪」…事業承継の鉄則を認識してもらう

事業承継は先送りをしてしまうと、徐々に時間と選択肢が減ってきて状態も悪くなるというのが最も多いケース。「先送りが悪」という事業承継の鉄則を経営者に認識させることができるアドバイザーや金融機関担当者が増えれば、毎年4~5万件の休廃業を食い止めることに少しでも貢献できる。結果、中小企業が持っている貴重なノウハウの継承や雇用の確保につながっていく。

会社が生き残ればその後何かいいことがあるかもしれない。なくなってしまうとそれで全てが終わりとなる。人口が急激に減少する日本で全ての中小企業が生き残るべきだとは無論思っていない。

しかし、なくなってしまうともったいない技術やサービス、お店がたくさん日本にはあることも事実。皆さんも周りを見渡せば、残したい技術やサービスやお店があるに違いない。 その経営者のお話しをじっくり聞いてあげて下さい。そして、背中を押してあげて下さい。それが事業承継問題解決に向けた最初の一歩です。

文:Antribe社長・小林伸行(M&Aアドバイザー