筆者が今年かかわったM&Aの成約事例を紹介する第二弾(前回の記事はこちら)。自己の振り返りも含めて4つのケースを取り上げる。

ケース1:サニタリー機器会社、取引先に恵まれるも後継者不在

D社はサニタリー機器の設計・製作や配管工事業を手がける。技術力があり、良い品物を安価に短納期で納めることが評価されている。上場企業の関連会社など優良取引先で売上高の過半数を占めている。

D社の社長には、後継候補者が親族にも社内にもいない。9人の従業員の雇用と長年の取引先
を守るため、M&Aを重要な事業引き継ぎ策の一つと考えた。

まず地元の取引金融機関に相談したが、金融機関内では譲渡先が見つからなかったため、私へ支援要請があった。最終的に、異業態の産業用ロボット関連の製造業H社への譲渡が成約した。H社は、D社の高い技術力(研磨技術)を獲得することで製造技術の向上による競合優位性を期待した。また、D社の優良取引先を継承できることにも魅力的に映った。一方、D社社長の譲れない点である全従業員の雇用を守ることができた。

【ディールポイント】
D社の強みを精査・整理し、興味を持ちそうな異業態へのアプローチを行ったこと。

ケース2:社長急逝で破産申請した洋菓子会社

 F社は、老舗の洋菓子製造販売業者。主力商品は、土産物の定番として知名度が高く、 地元で愛されていた。F社は代表者急死により自己破産を申請。その際、破産申立代理人の弁護士から、関係者の意向としてブランドの存続と従業員の雇用継続の支援依頼 があり、M&Aを検討した。非常にタイトなスケジュールの中、譲受候補先を絞り、短期間で集中的に交渉を行った。

その結果、急死したF社の旧代表者に個人的にもお世話になったことがあるという同業のT社が名乗りを挙げた。T社はF社の置かれている状況を正しく理解し、F社側の要望をほぼ受け入れる形でのM&Aとなった。

F社の社長と従業員の思いを引き継ぎ、現在もそのブランドを生かした商品を作り続けている。地元の人からも、馴染みあるブランドが復活したことについて、大変喜んでもらった。

【ディールポイント】
破産管財人弁護士の寛大な理解と柔軟性。交渉先を1本に絞れたこと(日頃の情報収集によ りF社とT社の過去の歴史や間柄を何となく把握していた)。

ケース3:買収経験もある運送会社にPEファンド紹介

M社は地元では有名な運送業。自身も過去に数回、M&Aによる事業取得を経験しており、見事な経営手腕とロールアップ効果の両輪により、規模の原理が働く優良企業となっていた。ただ、M社社長には子供がおらず、親戚などを関連会社の社長に登用するなどしていたが、自社グループの事業承継については手つかずの状態が続いていた。

縁があり、面談を行ったが、銀行や同業者からの事業承継提案には飽きている感が見受けられた。このため、PE(プライベート・エクイティ)のバイアウトファンドの仕組みについて提案した。すると興味を持たれたため、M社社長と相性が良さそうなファンドを厳選し、2社紹介した。

価格交渉にかなり時間を要したものの、最終的にはファンド側がM社の将来性を評価し譲歩する形での成約となった。その後、ファンドとM社経営陣は良好な関係が続いている。M社社長も長年の懸念だった事業承継問題から解放され、会長職として以前にも増して生き生きと業務をこなしている。

【ディールポイント】
様々な事業承継方法の選択肢を与えられたことと、PEファンドとの日頃からの定期的な情
報交換によるスピーディーな対応。

ケース4:優良会社が売手になれば、話は早い

U社は創業者が約20年で急成長させた地元ハウスメーカーである。社長のカリスマ性が強すぎるためか、子息が後継者となる様子は見受けられなかった。社内にも後継者がいる様子はなかったが、主力銀行を中心にU社へ譲渡案件を持ち込むことはあっても、U社が譲渡側になる提案をしている金融機関はなかったようだ。

銀行サイドとしては優良取引先であればあるほど、その会社の事業承継問題に触れにくく、あえて自分たちから提案する ことに躊躇する実態がある。事業承継問題に触れたがばかりに、貸出金の残高に影響(特に減少)することはサラリーマン支店長にとっては死活問題となるケースもある。

それだけで 、事業承継問題を放置しておくのか…? 笑い話のように思われる読者もいるかもしれないが、銀行という職業はそういう面がある。

話を戻すと、私の場合も同じように最初は譲渡案件を持ち込み、会話の中でU社の事業承継問題に焦点をあてていく、という王道のスタイルで臨んだ結果、県外の同業大手であれば話を聞いてもよい、ということになった。

 最終的に上場会社の傘下となった。U社社長はハッピーリタイヤとなり、結婚された娘さんがいる海外へ移住、従業員は上場会社のグループ社員になる、という絵に描いたようなディールとなった。

【ディールポイント】
誰からみても優良企業である会社が売手になれば話は早い、というM&Aの鉄則を忘れないように日々、唱和していたこと(笑い)。

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さて、令和2年も「事業承継」をキーワードとした様々なイベント(出来事)があることでしょう。不動産は千三つ、M&Aは万三つ。一つひとつに思いを込めながら来年も「繋ぐ」ということにこだわりたいと思います。では、よいお年をお迎えください。

文:Antribe社長・小林伸行(M&Aアドバイザー