コロナ禍は「MAE条項」の対象となるか?

が、ティファニーは「LVMHの主張する新型コロナ拡大などの社会情勢はMAE条項の対象に含まれない。むしろこの期間中のティファニーの経済状況は、LVMHを含む他のラグジュアリー企業と比べても良好だった」と反論する。

LVMHの2020年1~6月期決算は、売上高が前年同期比26%減の183億9300万ユーロ(約2兆3000億円)、純利益が同84%減の5億2200万ユーロ(約655億円)の減収減益だった。「新型コロナで業績が低迷したのが問題だというのなら、そちらも同じ。契約取り消しの理由にはならない」というのがティファニーの主張だ。

コロナ禍による業績の落ち込みがMAE条項を行使する条件になるのかが、今回の裁判の争点となる。2018年にMAE条項による合併契約の取り消しを認めたデラウェア州の判例(Akorn v. Fresenius 判決)では、「商業上合理的な期間(数ヶ月ではなく数年)にわたって対象会社の長期的な収益に影響を生じさせるか」が重要な判断要素であるとしている。

つまり、ティファニーの業績悪化がこれから数年にわたるかどうかが判決を分けるというわけだ。同社の5〜7月期決算は売上高が前年同期比3%減の10億4800万ドル(約1110億円)、純損益は同6%減の1億3600万ドル(約144億円)の黒字と持ち直している。コロナ感染の状況次第だが、現時点で「今後数年にわたって収益に影響する」と判断を下すのは難しいだろう。

LVMHにとっては係争の泥沼化も「計算の内」か

買収不履行で訴えられたLVMHは、翌9月10日にティファニーを反訴。LVMHが買収に関する申請を意図的に遅らせているとのティファニーの主張を「根拠がない。提訴は中傷であり、不誠実だ」と真っ向から否定。さらには「ティファニーの業績には失望しており、当社のブランドよりも著しく劣る」と激しい言葉で非難した。

もっとも「外交的駆け引き」が得意なLVMHのことだ、徹底的に衝突することでティファニーとその株主たちに「買収されても、うまくいかないだろう」と強く印象づけ、契約をご破算に導く狙いがあるのかもしれない。「ティファニーが当社を相手取り訴訟を提起したことに驚いた」と言いながら、提訴翌日に反訴した用意周到さも不自然だ。LVMHにとっては「これも計算の内(うち)」なのかもしれない。

文:M&A Online編集部