映画「マトリックス リローデッド」(2003年公開)で「フランスかぶれのスケコマシ野郎」と呼ばれる紳士メロヴィンジアンは、寝業師のような陰謀術数を駆使する嫌味で陰険なキャラクターだ。米ティファニーの目には自社の買収を撤回した仏LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトンが、彼のような存在に映るだろう。

米国の「報復関税」を口実に買収中止を決断

LVMHは2020年9月9日、フランスのデジタル課税に対する米国の報復関税を理由に仏政府から延期を求められたとして、ティファニー買収計画の断念を発表した。LVMHは「買収破談の原因はティファニーの本国政府にあり、わが社としては自国政府の要請に逆らえない」と弁明したのだ。これにティファニーは猛反発。同日、契約の履行を求め、米デラウェア州裁判所に提訴した。

LVMHは仏政府の要請前から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴うティファニーの業績悪化を受けて買収に及び腰だった。LVMHは2019年11月に1株あたり135ドル(約1万4000円)、総額160億ドル(約1兆7000億円)でティファニーの買収を発表したが「割高な買い物」だったと後悔し始めていたという。そこに降って湧いた米政府の報復関税と仏政府からの延期要請を「渡りに船」とばかりに撤退の口実にしたとティファニーはみている。

その根拠としてティファニーはLVMHがEUや台湾で買収に必要な届け出申請をしておらず、日本とメキシコでは届け出が未処理状態のままで店ざらしにされている事実をあげ、「LVMHが努力義務を怠ったことに起因するものだ」と批判している。

さらにLVMHが買収対象企業の事業などに重大な悪影響を及ぼす事由が発生した場合において買い手が取引を中止できる権利を規定する「MAE条項」を根拠に契約破棄を通告したことについても、ティファニーは異議申し立てをした。

2020年に入り、新型コロナ感染拡大でティファニーの業績は急速に悪化。2020年2~4月期決算は売上高が前年同期比45%減の5億5500万ドル(約588億円)にとどまり、純損益は前年同期の1億2500万ドル(約132億円)の黒字から6400万ドル(約68億円)の赤字に転落している。