M&Aにおいて買い手側の経営者は売り手企業の決算書を必ず検討するはずだ。中小企業においてその会社の歴史や文化といったものは、経営者の人生そのものである。人生の総決算という言葉があるが、決算書は経営者の通信簿である。

決算書は経営者の通信簿。美しい貸借対照表を作ることが大切

    この際、経営分析用語は無視させていただくが、資産は表の顔、資産を調達する側の負債や資本の部は裏の顔とも言える。中小企業にはそれぞれその会社特有の風土とか文化というものがあり、これは100社の企業があれば100社とも違うものだ。

    M&Aの場面に限らず、美しい財務諸表、とりわけ美しい貸借対照表を作ることは大切である。流動資産の項目では、受取手形や売掛金が約定期限内にきちんと回収できるものか常に与信管理を行わなくてはならない。また在庫についても販売できるものを持つことが重要で、販売見通しのないものは早期に処分できる収益力が必要である。仮払金や社長貸付金、 立替金、未収金といった、中身をよく見ないと理解できにくいような勘定科目は減らすようにした方が良い。

    こうしたことを経て、流動負債項目での支払手形の圧縮や全廃に動くことができれば、筋肉質のバランスシートを作り上げる準備ができることになる。貸借対照表には、中小企業経営者の力量、社員の力、応援する取引先、そして金融機関の支援態度などが凝縮されている。自己資本から資本金相当額を控除して、当該企業の活動年数で割ってみれば、どのくらい毎期平均で税引き後利益を稼いできたかが分かる。

売り手企業はサビを落とし、財務力を磨け

    設備投資、在庫投資、人材採用(育成)投資。中小企業経営の資金繰り悪化や破たんの原因は突き詰めれば、この三つのいずれかの投資の失敗に起因する。設備投資は所期の投資効果が得られなければ、あっというまに不良設備となり、減価償却ができなくなって借入金の返済が難しくなる。

    在庫は陳腐化すれば「罪庫」となり、倉庫のスペースを独占し経費の塊となる。採用も難しい。人手不足になって急に採用しようとしても優秀な人材は簡単には集まらないし、下手をすれば労務問題のトラブルに発展するケースが最近は多い。人材育成も経営者が本気になって長期的に取り組まないと成果に繋がらないことが多い。

    中小企業経営において資金繰り悪化の端緒は、売上減少によることが多いが、得意先の減少、倒産などで販売代金が回収不能となってしまうようになると、そのような状況にある会社を買いたいとは言ってくれる企業は少ないだろう。

    会社を売る側においても、魅力ある貸借対照表の形や姿をしていないといけない。後継者がいなくとも財務力を磨く(サビを落とす)習慣を持ち続けると、M&Aに繋がる可能性が出てくる。

    私がお付き合いしてきた資材問屋の経営者は、借金が嫌いで、赤字が出てもなんとか自分の給料で穴埋めしながら頑張っており、小さいながらも販売先に信頼されていた。同業者からM&Aを打診された際には、借入債務が少ない点と特色ある販売基盤が評価されてM&A契約に至った。