退職金の勘違い!
役員報酬の減額や登記変更などをしていれば税務調査が入っても退職金は否認されない

正しい考え方は!
形式上だけでなく、退職の事実も徹底調査される

税理士・小林先生の見解

 退職金の税務調査は、それほどない。あったとしても、厳しくはない。そんな思い込みはないだろうか?
これは勘違い以外の何ものでもない。一般的な税務調査、あるいはそれ以上の厳しさで調査が行われるという前提で、きめ細やかな対策をとるべきだ。

 役員のみなし退職キーワード に伴い、役員報酬の2分の1未満の減額、登記変更、株主総会の議事録を用意するなどの対策をとっておけば、「税務調査が入っても、認められるだろう」と考えている税理士は多い。そのため、同じ認識を持っているオーナー経営者は多いはずだ。

 これくらいの対策は、対策とは呼べない。税務調査では新社長や役員はもとより、一般社員、取引先、金融機関にまで反面調査が行われることもある。そこでは、人事や営業などで大事なことを誰が決定しているかに焦点を当てて徹底調査が行われる。もし、この調査により経営に参加している実態が明るみになれば、全額否認もあり得る。
ここまでお話しても、退職金の調査など、そうそうないだろうと高をくくっている方もいるかもしれないが、私の顧問先企業でも退職金に対する税務調査が入ったケースが最近あった。

 これもごく最近の話だが、国税庁の職員の研修や、税務に関する研究を行う「税務大学校」の論文において、同族会社のオーナー経営者のみなし退職は厳しく見るべきだという内容を目にしたことがある。今後、退職金の税務調査がますます厳しくなると考えるべきではないだろうか。では、もし、退職金を否認されたら、実際にどれくらいの負担が発生するのか。

 全額否認された場合、損金扱いにならないため、退職金を払った企業側には法人税が発生する。併せて、受け取った本人も退職金が否認され役員賞与の扱いになると、所得税が大幅に増える。
これらに重加算税を加えると、退職金以上の負担が発生することもあり得る。
仮に、3億円の退職金が全額否認された場合、企業と個人合わせて4億円以上の負担が発生する可能性もある。
 退職金の否認を防ぐには、まず、従来から言われている形式的な対策をとるべきだ(下図参照)。

 この形式的な対策で私が特に抜け落ちやすいと感じるのは、株主総会を開催し、退職金の額や支払いを周知したという議事録の作成だ。
株主総会を開催せず、経営者自身が便宜的に作成するケースも見受けられるが、役員全員に反面調査が行われれば退職金を周知していないことが露見する。
また、先ほど申し上げた通り、形式的な対策だけでは、対策とは呼べない。
常勤状態の出社や、経営の重要事項の決定には参加しないようにし、「経営から退いた事実」をつくることが重要だ。

 創業者や元社長は、会社に頻繁に顔を出すだけで、権限が強くなってしまいがちだ。たとえ、出社頻度を減らしたとしても、自社株の大半を所有していれば、周囲は意見を聞かざるを得ない。
逆にいえば、経営者自身がよっぽど意識して退職しない限り、「経営から退いた事実」をつくることは難しいといえる。この点に留意して退職の準備を進めていく必要がある。


キーワード:みなし退職
役員の職務内容や地位が大きく変更された場合に退職したこととみなし、税法上、退職金を払える。常勤役員が非常勤や監査役になった場合などが該当する。


退職金の勘違い!
資金繰りを悪くしてまで多額の退職金をもらおうとは思わない

正しい考え方は!
退職金で、会社の負担を変えずに手取を増やせる

税理士・小林先生の見解

 多額の退職金を受け取ると、会社に大きな負担をかけてしまう。もし、こんな考え方を持っているなら、今すぐ捨てるべきだ。
退職金は、役員報酬に比べて、税制面で大きなメリットがある。このメリットを活用するか、しないかが、役員退職金の基本的な考え方であろう。

 例えば、5年間で総額2億円の役員報酬を受け取るオーナー経営者なら、このすべてを役員報酬で受け取れば、手取り総額は1億2千万円程度になる。
これに対して、2億円のうちの半分を役員報酬で受け取り、残りの半分を退職金で受け取った場合、手取りは1億5千万円程度に増える(下図参照)。
その差額は、なんと3千万円だ。原資の2億円は同じでも、受け取り方を変えただけで、ワンルームマンションが買えてしまうほどの差額となる。
ここまでの差が生まれる原因は、単純に所得税・住民税の税率が高く、退職金の税率が低いためである。同じ額を受け取るのなら、税率が低い退職金で受け取った方が絶対的にいい。

 退職金を組み込んだことで、会社の負担はどうなるかといえば、1年目から4年目までは役員報酬が減少するため、税負担が増えるが、5年目で退職金をまとめて損金計上できるため、5年間の損金総額はまったく変わらない。
この場合、気になるのは、短期間で多額の損金が発生することだが、繰越欠損金として、翌期以降、9年間は繰り越すこともできる。

 退任後に繰越欠損金を残したくないと考えるなら、損金になる共済や保険を活用して、退職金の原資となる現金を準備しておけば良い。
個人の収入は、天引きなので引かれている痛みを感じにくい。一方、法人税は一括納付なので、負担を感じやすい。そのため、法人税の節税に目を奪われがちなオーナー経営者は多い。

 天引きという錯覚に惑わされず、個人の収入に対しても、節税の高い意識を持つのが望ましい。

退職金の勘違い!
退職金の適正額の計算式に従っていれば否認されない

正しい考え方は!
退職金の適正額の計算式はあくまでも目安である

税理士・小林先生の見解

 顧問税理士が推奨する退職金の計算式を守っていれば、否認されないと思い込んでいないだろうか?

 退職金の適正額の計算式とは、「月額報酬×勤続年数×功績倍率」だが、これは絶対的なものではなく目安である。
現実においては、右の計算式を守っているにも関わらず、国税不服審判所の判決で退職金が否認されるケースも見受けられる。

 その原因となっているのは、役員報酬の変動にある。何らかの事由により、役員報酬が頻繁に変動している、あるいは、役員報酬がゼロの場合などは、さきほど紹介した適正額の計算式をそのまま適用するのではなく、「合理的な説明」が必要となる。

 その手法はケースバイケースだが、例えば、役員報酬の変動が著しい場合は数年間の平均額を適用する、役員報酬がゼロの場合は、同業種同規模の会社の役員報酬を基準にするといった選択肢がありえる。それも絶対的なものではないので、最終的には、税理士の経験値や判例を参照するしかない。

著書紹介

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