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税制度について ~あらためて今考えるべきこと~

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税制度について ~あらためて今考えるべきこと~

1. 納税義務と租税回避

 そもそも税金はなぜ必要なのでしょうか?アメリカの国税庁に相当する建物の入り口には、「租税は文明社会の対価である」(オリバー・ウェンデル・ホームズ)と記されています。税金は文明社会における公共サービスや公共施設の使用料、ということです。但し、使用料と言ってもサービスを受ける人が直接対価を支払うのではなく、「税」という形で広く徴収し、実際に公共サービス使う人は無料で、あるいは僅かな負担で済むことになります。

 そして日本における納税は国民あるいは企業の任意ではなく、義務として日本国憲法第30条に規定されています。それは基本的に他の先進国でも同じです。義務として定められているにもかかわらず、世の中には「租税回避」を行う人がいます。富裕者層ほどその傾向が強いのだと思いますが、それは高い税金を支払うことに対する納得感が欠如しているからと思われます。高い税金を支払っても、その税金が適切に使われ、あるいは自分もその恩恵を受けることがあれば、文句を言ったり租税回避の行動に走ることもないのではないでしょうか。

2. 税金の使い道

 平成28年度の予算上の国の歳入約97兆円のうち、約6割の58兆円が税収です(残りは国債の発行等)。地方税まで含めると、国及び地方公共団体の税収は100兆円規模となります。これだけ多額の税収が一体何に使われているのかをきちんと分かっている人はほとんどいないのではないでしょうか。

 かくいう私も意識したことがなかったので国税庁のホームページ等で調べてみると、国について言えば、税収と国債を合わせた100兆円のうち、一番多いのは社会保障費で約3分の1を占めています。次に国債の償還や利払いに約4分の1、地方交付税が約16%、続いて公共事業費6.2%、文教・科学振興費5.5%、防衛関係費5.2%と続きます。社会保障と過去の借金の返済で実に約6割と、大部分を占めていることになります。

 公共事業が思ったより少ないと思いましたが、それでも絶対額は6兆円ありますから巨額です。90年代頃までは公共事業が盛んで建設国債の発行が多かったようですが、近年は高齢化による社会保障費の負担増が国債発行の主たる要因です。国債は借金でいつかは将来世代が返さなければならないもので、今や国債残高は1,000兆円を超え、国民1人当たりで800万円以上となります。毎年国債費として支出しているのが23兆円ほどですから、全て元本返済に回すとしても完済まで40年以上かかる計算ですから、気の遠くなる話です。

 社会保障費も年々増え続け、それがさらに国債残高を増やす要因となっている訳で、構造的な問題をそのままにしていると将来世代の負担がどんどん増加し、いわゆる世代間格差が拡大するのですから、少しでも早く抜本的な手を打たなければならないことは言われ続けている中で、政府が社会保障費の財源である消費税の増税先送りを決断したことが与える影響は、相当大きいと感じてしまいます。

3. 社会保障と税の一体改革

 ここでいう影響というのは、高齢化の加速とともに加速度的に膨らむ社会保障費の財源への、という意味です。『社会保障と税の一体改革』は、社会保障の充実・安定化と、将来世代への負担の先送りの軽減を達成するために、平成25年に成立した法律に基づく政策で、消費税率を5%から10%に引き上げる増税の5%分は全て、社会保障の財源とすることが前提となっていました。増税による財源規模は当時14兆円を想定していましたから、今回増税を延期した3%分は約8兆円の財源に相当します。

 8兆円を他の手段で賄うことは簡単にはできません。もちろん年金・医療・介護や子育て支援と言った社会保障給付は、税金だけでなく社会保険料も財源であり、税金と保険料の割合はおよそ40%対60%となっています。税収が足りなければ保険料を増やせばいうのも乱暴な話ですし、そもそも急激な保険料の引き上げは世間からは受け入れられないでしょう。そのために消費税の増税分を社会保障の財源に充て、社会保障を安定化・充実するというのが、社会保障と税の一体改革の骨子だったと思います。

 収入がなければ使うことが出来ません、あるいは使う金額を変えないのであれば、借金が増えるのみです。いつか景気が良くなったら実行すると言っていたら、手遅れになってしまうかもしれません。問題を先送りにするのも限界があります。

4.海外に逃げる富裕層

 水が高きから低きに流れるが如く、富裕層は税率の高い国から低い国へと資産を移す傾向があります。せっかく稼いだ資産を税金に取られるのはもったいないという心理が大きいのでしょう。節税、それが行き過ぎた脱税は今に始まったことではありませんが、経済がグローバル化し、お金の移動が自由に行える現在において、金融資産や不動産を海外に持つ流れが加速しています。

 国は不当な税逃れを防止するため、毎年12月31日に評価額が5千万円を超える国外財産を有する者に対して、国外財産調書を税務署に提出することを求めています。平成26年度は提出者が約8千人、その総財産額は3兆円を超えますが、未提出者も相当数いると思われます。未提出だと過少申告加算税が加重される等の罰則がありますが、それもどこまで効果を持つか分かりません。

 また昨年の7月1日からは、国外転出時課税制度が創設され、平成27年7月1日以後に国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることを言います)をする一定の居住者が1億円以上の対象資産を所有等している場合には、その対象資産の含み益に所得税及び復興特別所得税が課税されることとなりました。

 このように海外への資産移転に係る課税強化策が取られ、また大口の海外送金情報を課税当局は掴んでいるようですので、租税回避を防止する網の目がだんだんと狭まって来ていますが、合法で(グレーなものも含み)、複数の会社をかませて複雑なスキームにして、お金の足跡を分かりにくくすることで、脱税を試みることもあるようですので、課税当局と納税者のイタチごっこは終わることはないでしょう。

5.終わりに

 最初に税は文明社会の対価、公共サービスの使用料と書きましたが、使い道の実態は、国債費を除くと社会保障費としての使い道が3分の1を占めるように、実質は年金や医療費の給付として請けるものですから、警察や消防という受けるか受けないか分からないサービスに比べると、誰もが恩恵を受けるものです。但し、年金や医療費については、恩恵を受けるのは高齢者で、それを負担するのは現役世代という世代間格差が大きな問題です。これは構造的な問題であり、高度成長期には目立ちませんでしたが低成長社会においては、仕組みを変えなければ打破できないものです。その手段が消費税の増税だった訳ですから、延期すべきでなかったという意見も多いと思います。

 税は取られるもので、好んで納める人・企業はまずいないでしょうから、その使い道がもっと身近に分かり、体感できることが、重要なんだろうと思います。北欧諸国はいずれも消費税率が20%を超えて日本よりかなり高いですが、国民の政治や行政に対する信頼が高いという話も聞きます。それは、税が高くても見返りとして手厚い福祉が保障されていたり、政治家の汚職が少ないということも影響しているようです。

 日本は企業勤めの人は源泉徴収され、年末調整すれば確定申告をしなくていいことから、そもそも税金を支払っている意識が低いので、税金の使い道について興味を持ちにくいと言われます。また政治家の不祥事、政治の混迷もあり、選挙の投票率の低下が示すように、政治に対しての興味も薄れて来ています。私も反省していますが、財務省や国税庁のホームページで、税金の源泉や使い道といった収支は簡単に見ることが出来ます。税金を嫌がるのではなく、より有効に使われるよう、国民1人1人が興味をもってその使い道をウォッチしていくべきと思います。

文:株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.030 2016.06.08)より転載

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