こうした動きは止まらない。韓国の政府や企業が「日本がさらに別の素材でも輸出規制を強化するのではないか」と疑心暗鬼になっているからだ。さらにもう一つの「事件」が韓国の内製化を加速させるだろう。それは米アップルがiPhoneの2020年モデル用に中国BOE(京東方科技集団)から有機ELパネルを調達するとのニュースだ。
有機ELパネルは液晶パネル同様、生産規模が価格と品質の安定性を決める。かつて液晶パネルで日本メーカーが韓国メーカーに駆逐されたように、やがては資本力にすぐれる中国メーカーに市場を奪われるのは避けられない。そうなれば韓国は現在の日本と同様、素材や生産装置を中国の有機ELパネルメーカーへ供給する産業の「川上(前工程)シフト」で生き残りを図ることになるだろう。
輸出規制強化への対抗と川上シフトの加速という「両輪」が噛み合うことで、日本の独壇場だった半導体やパネル向け素材や生産装置の韓国での内製化は一気に加速しそうだ。日本としても「韓国メーカーが技術開発力で日本メーカーを追い越すなんて考えられない」「やれるものならやってみろ」と高見の見物を決め込むわけにはいかない。かつて液晶テレビや半導体でも同様の見方が有力だったが、現在では両国の立場が完全に逆転している。
技術のキャッチアップのスピードは確実に上がっている。わずか数年で逆転ということもありうるのだ。韓国への制裁どころか、日本の「お家芸」だった先端素材産業がほかならぬ日本政府の手によって存続の危機に瀕する可能性すらある。韓国に対する輸出規制強化の最大の犠牲者は、日本の企業と経済だったという皮肉な結末になりかねない。
文:M&A Online編集部