EUとの間で合意した離脱案が、1月15日に大差で英議会から否決されたテリーザ・メアリー・メイ英首相。翌週21日には議会で代替案を表明したが、具体性に乏しかったとされる。
同日の国内の新聞には、朝刊紙メトロの「グラウンドホッグ(groundhog=リス科マーモットの小動物) 首相メイ」、タイムズ紙の「12名の大臣 辞職の可能性」など、首相への揶揄や風当たりの強さを打ち出す見出しが並んだ。
2019年3月29日のEU離脱を控え、影響が及び始めている国民生活の現状、及び、いまだ不透明な先行きについて英国メディアはどう報じているか整理した。
■ポンド下落がもたらす実質値上げ
英国の国家統計局(ONS)によれば、EU離脱の国民投票をきっかけとして、2015年9月から2017年6月までの間に、計206品目の商品で実質値上げ、すなわち価格据え置きでの少容量化(shrinkflation)が行われた。
この理由として、英ガーディアン(1月21日)は、ポンド下落が輸入原料の高騰を招いたものと分析している。チョコレートブランドのマース(Mars)が従来の容量の15%削減を行ったのをはじめ、影響はトイレットペーパーや液体洗剤、食料品にまで広がり、国民生活への影響が懸念されている。
■倉庫の駆け込み需要
ガーディアンは、1月22日、英国倉庫協会(UKWA)の調べに基づき、EUからの合意なき離脱後に生じる輸送遅延に備え、主要都市で貯蔵スペース不足が生じていることを報じた。
2018年12月の調査によれば、協会員の85%がEU離脱関連の問い合わせに追われ、75%は新規顧客からのビジネスに応じることができない状態だという。対象品目は食品の素材からキャットフードに至るまで多岐にわたる。
同記事によれば、たとえば英流通大手のテスコは、通常クリスマス時期にしか用いないコンテナを、今年一杯、冷凍品用にレンタル済みとしている。ほかにも英高級車メーカーのベントレーや英折り畳み自転車大手のブロンプトンから英製薬大手のグラクソ・スミスクライン、キプリングまで、備蓄計画を公表している企業はさまざまな業種に及ぶ。
これに伴い、大手の製薬会社や酒やタバコ、自動車メーカーは既に、貯蔵コストを吸収・転嫁できるよう、製品を値上げしたり長持ちさせたりする計画を打ち出している。一方それが難しいのは、製品の性質上、価格が安く消費期限が短い食品との指摘もなされている。