事業譲渡とは、会社が行う事業の全部、あるいは一部を他の会社へ譲渡・移転することです。事業譲渡にあたっては、譲受側がその営業を行う権利を得るため、譲渡した会社は一定期間同じ業務や類似した業務が禁止されます。

また、会社の業績が悪くても、他社にない競争優位性のある事業であれば譲渡も可能ですので、今春から猛威を振るう新型コロナウイルス感染症による不況下、にわかにこの事業譲渡が注目されてきています。

では、M&Aスキームの一つである事業譲渡について見ていきましょう。

事業譲渡の主な種類

事業譲渡とは、一般的には下記に示す行為のことです(以下会社法467,468条に規定)。

⚫︎事業の全部の譲渡
⚫︎事業の重要な一部の譲渡(当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価格が当該会社の総資産額として、法務省令で定める方法により算定されている額の1/5(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないものを除く)
⚫︎他の会社(外国会社その他の法人も含む)の事業の全部を譲受
⚫︎事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任、他者と事業上の損益の全部を共通する契約、その他これらに準ずる契約の締結、変更または解約
⚫︎株式会社の成立後2年以内におけるその成立前から存在する財産であって、その事業のために継続して使用するものの取得(いわゆる事後設立のこと)

M&Aにおける事業譲渡

事業譲渡は、会社法上の複雑な規定をうける「合併」のような組織再編行為と違い、営業上の取引行為として行えます。

ただ、大規模な会社ではあまり利用されることはなく、合併などの手法に比べるとややマイナーなイメージもあります。

M&Aにおける事業譲渡を、メリット、デメリットの面から見ると以下のようになります。

M&Aにおける︎事業譲渡のメリット

事業譲渡のメリットは、経営規模の大きくない中小企業のM&Aの際に多く見られます。

①事業の全部だけでなく、一部のみの譲渡も可能です。これは譲渡側にとって、不要な事業のみ譲渡ができるというばかりでなく、譲受側からは将来成長が見込める事業のみ譲り受けできるといった選択ができます。

事業譲渡は、あらかじめ決められた範囲の事業のみ引き継ぐため、譲渡後になって帳簿に載っていない簿外債務などを引き継ぐことはありません。ですから事前のデューデリジェンス(DD)にコスト・時間をそれほどかけなくてすみます。

③譲渡側の事業に、営業上優位な商標・ブランド力・ノウハウといった無体財産などがある場合、法人税法上「のれん」が生じることがあります。「のれん」は5年の均等償却で損金計上できることがあり、この点でも譲渡所得税の対象となる「株式譲渡」などと違ったところで、メリットといえます。

④会社の業績が悪くても、他社にない競争優位性のある事業であれば譲渡することも可能です。そのため、事業の選択と集中による企業再生等の有効な手段となり得ます。

M&Aにおける事業譲渡のデメリット

大規模な企業にあまり利用されないということは、これらの企業にとって事業譲渡は、デメリットになることもあるわけです。

事業譲渡には、時間とコストのかかる株主総会特別決議が必要です。これは大規模な企業にとってかなりの負担となります。

事業譲渡は、個々の従業員や取引先との関係を、個別に見直さなければならないため、膨大な時間・コスト・労力を要することにもなります。例えば、従業員が数千人いる場合、一旦、全員との雇用契約を解除し、改めて雇用契約を締結しなければなりません。

また、数十から数百にのぼる様々な取引先についても、逐一その財務内容や取引履歴、契約などを事細かくチェックする必要があるため大きな負担です。

確かに事業譲渡によるM&Aは、大規模な企業にとっては、決して使い勝手のいいものではありません。
また、従業員との雇用関係、取引先との関係を維持しながら「時間を買う」という効果が期待できる株式譲渡に比べると、不利な点は否めません。

しかし、中小企業や小規模企業にとってはメリットもたくさんあります。そのため、M&Aアドバイザー等の専門家の支援を受けながら、「株式譲渡」や「会社分割」など他のスキームとも比較・検討し、使い分けていくことがよいでしょう。

文:特定行政書士 萩原 洋