前回までは、M&Aの全体像と各プロセスを流れに沿って大まかに見てきました。今回からは、M&Aのスタートである目的の設定から最終プロセスの事業統合(PMI)における、注意点、押さえておくべき重要ポイントなどを中心に、最新のトピックスにも触れながら見ていきたいと思います。

ここでは M&Aをなぜ行うかといった目的の設定とそのメリット・デメリットについて解説していきます。

M&Aの目的をきちんと定める 

M&Aを行う目的は、売手企業と買手企業とでは違ったものになります。売手企業と買手企業の立場に分けて見ていくとわかりやすいので、双方の立場から見ていきます。

売手企業のM&Aの目的

事業承継対策の一環
●余剰資源を売却して事業の選択と集中を図る
●事業を再生する
●オーナー経営者の利益獲得(売却益) 

買手企業の M&Aの目的

●既存の事業を拡大するため
●新規事業を展開するため
●事業のシナジー(相乗)効果を出すため
●優れた人材、技術、ノウハウなどを取得するため

こうしたM&Aの目的をしっかり理解した上で自社の目的を定めれば、その各プロセスを進める際に戸惑うことはなくなります。

目的設定のメリット・デメリット

しっかりとした目的を設定し、M&Aを行えば多くのメリットがあります。売手企業・買手企業に分けてそれぞれのメリットを見ていきます。 

売手企業のメリット

●清算・廃業を回避して会社や事業の存続が可能になる
●従業員の雇用の維持・安定が見込める
●事業再生により経営基盤の強化が図れる
●不採算部門を切り離し採算部門に力を入れられる
●経営者としての責任から解放され自由になれる
●多額の売却代金を経営者の引退後の生活費等に当てられる

買手企業のメリット

●時間や手間をかけずに、人材・技術・ノウハウなどの入手が可能になる
●事業範囲を拡大することができる
●商圏エリアを拡大することができる
シナジー効果による経営の効率化や企業価値の増大が図れる
●競合他社に対する競争優位が期待できる

一方、M&Aの目的を決める上で、注意しておかなければならないデメリットとなり得る点もあります。

売手企業のデメリット

●経営者としての権限、社会的地位等を失い疎外感や時間を持て余す
●予想と違う不本意な経営理念、方針を強いられることがある

買手企業のデメリット

●多額の買収資金が必要
●計画通りに進まない可能性もある

このようにメリットも多いM&Aですが、思いのほか成約率が高くないのも事実です。その要因は色々ありますが、何といってもM&Aの目的を十分理解していない、また、そのメリット・デメリットを把握しきれていないことなどが大きく影響しているようです。

その結果、本来の目的を実現するための手段であるM&Aが目的と化す「手段の目的化」という本末転倒な結果になってしまうのです。

M&Aは、これからの我が国の企業にとってなくてはならない、経営戦略上の有効な手段になるといえるでしょう。ただ、中小企業や小規模事業の経営者にとっては、一生に一度ともいえるM&Aです。失敗のないよう、また、あとで悔やむことのないよう、M&Aアドバイザー等の専門家の支援を受けながら、その本来の目的とメリット・デメリットを十分に理解した上で進めたいものです。

文:特定行政書士 萩原 洋