中小企業の経営者や個人事業者にとって、頭を悩ませるのが事業承継です。事業承継には、子供などへ引き継がせる「親族内承継」や従業員に引き継いでもらう「親族外承継」があります。そして近年注目されている承継方法に、「M&Aによる事業承継」があります。

M&Aによる事業承継は、親族内承継や従業員への親族外承継が難しい場合にも、廃業することなく、会社や事業を存続させることのできる有効な承継方法です。 

日本におけるM&Aの変遷

M&Aは「Mergers and Acquisitions」の略語で、日本語では「合併・買収」などと呼ばれています。M&Aの歴史は古く、日本では明治時代から、造船業界や鉄鋼業界などで、財閥が中心となり行われてきました。

近年では、バブル全盛期に主に大企業が中心となって、海外企業を対象にしたM&Aも実施されました。バブルが崩壊したあとは、経営難から大手金融機関の統廃合などのために、M&Aが利用された時期もあります。

その後、海外投資ファンドが日本の上場企業にM&Aをしかけたため、「ハゲタカ」「買い叩き」「敵対的買収」などと呼ばれ、このネガティブな言葉から、一時期M&Aには悪いイメージが付きまといました。しかし、こうした動きが下火になる中、M&A業界団体などの啓蒙活動によりM&Aに対する理解が深まり、悪いイメージも払拭されてきました。

現在のM&Aは、売手側企業も買手側企業も双方が、「win-win」の関係である「友好的買収」が多くなっています。

M&Aのスキーム(手法)

M&Aには様々な手法があり、このM&Aの手法を「スキーム」などと呼びます。M&Aのスキームは、大きく分けると「支配権獲得」を目的とするものと、目的としないものに分かれます。支配権獲得とは、買手側企業による売手側企業の「経営権」の取得です。

支配権を目的とする一般的なM&Aには、「合併」「会社分割」「株式交換株式移転」「株式譲渡」「事業譲渡」「新株引受」などがあります。「合併」は買手側・売手側双方の企業がひとつに統合されるもので、そのほかは、買手側企業の下に売手側企業を配し、子会社化・グループ会社化して、その傘下に置きながら経営を行うものです。

支配権を目的としないものは、複数の企業が提携(アライアンス) という形で緩やかな協力関係をとるもので、「業務提携」「資本・業務提携」「合弁(ジョイント・ベンチャー)」に分けられます。原則、それぞれが独立した経営体となっているところに特徴があります。

これらのスキームの中で、中小企業や小規模事業などがM&Aの際に利用するものとしては、株式譲渡事業譲渡があります。特に株式譲渡は、中小企業などとの相性がよくメリットも多いので、最も利用されているスキームです。

M&Aによる事業承継のメリット・デメリット

M&Aによる事業承継のメリットは、会社、事業を引き継いでくれる相手の選択肢が大幅に増えることです。親族や従業員などという狭い範囲にとらわれず、多くの企業や事業者が対象となるのです。次に、廃業することなく会社、事業が存続でき、従業員の雇用も守られることです。さらに、これらの会社や事業が買手側企業の下で、より発展、成長できる可能性もあります。

一方、株式譲渡であれば、売手側経営者に直接多額の売却代金が入ります。引退後の生活資金が確保できるため、充実した老後を送ることもできます。

デメリットとしては、M&Aには専門知識や幅広いネットワークが必要なことから、M&A仲介会社等に依頼することになるため、多額のコストがかかってしまうことです。その割に、売手側企業、買手側企業が、当初期待していたほどの効果が出ないこともあることです。

文:特定行政書士 萩原 洋