全ては相手を知る事からはじめよう

M&Aにおける「プレゼンテーション」とは、結婚における「プロポーズ」。その後の2人の行方を左右するプロポーズ同様、プレゼンの出来次第でM&Aの行く末は怪しいものになります。

しかしプロポーズと一口で言っても、相手によってはサプライズがいいのか、ロマンチックな場所がいいのか、人前でされたいのか、と好みがバラバラなように、M&Aにおける良いプレゼンでも、全ては「まずは相手を知る事から始まる」のです。

至極簡単に言えば、M&Aのプレゼンは「M&Aの目的」を伝え、相手が合意さえすればそれで十分なわけですが、その「M&Aの目的」が曲者なのです。

一見お互いの事業にとってプラスであるM&Aだったとしても、その目的の結果が見えていない、もしくは共有できていない場合には上手くいかないでしょう。プレゼンの相手の立場や状況、考え方によってはプロポーズのように何を話すべきかも変える必要があるのです。


事例1:大手企業が職人気質の会社を買収したい場合

実際にあった話をもとにお話します。大きな包丁工場を持っており中価格帯商品を販売している日本企業のA社が、中国に包丁工場を持ち、低価格帯の包丁を販売しているB社にM&Aの話を持ちかけました。

話はとてもシンプルで、「事業の拡大」と「市場の強化」がお互いの最大の目的。A社からすればB社の工場を使う事ができ、原材料を大量購入する事で経費削減が狙え、低価格帯商品への扉が開けるのに対し、B社としてもA社の持っている技術や品質管理のノウハウの獲得は今後この業界に生き残るには魅力的なものでした。そこでお互いが合意し、A社はB社を買収する事にしました。

A社はこの成功をきっかけに、高価格帯のハンドメイドの包丁を販売している包丁職人Cさんの会社を買収することで商品のラインナップを増やし、Cさんが持っている高級包丁に興味のある顧客へのアクセスが欲しいと考えていました。

実はCさんの会社には過去の事業で失敗した借金があり、事業を続けるには資金の調達が必要と考えていました。そこにA社が買収の話を持ちかけてきました。話を聞いてみると、A社には十分な資金があり、これまでに包丁造りの色々な工程を機械で行うことに成功してきた魅力的な会社。これからもまだまだ伸びしろがあり、A社の協力があれば会社の立て直しの可能性があると考えました。

そこで職人友達のDさんに相談してみると「A社という会社はこれまでも小さな会社を買収しており、買収した会社の技術を機械化する事に成功し、その結果職人たちが仕事を失っている」という答えが返ってきました。

改めて冷静になって思い返してみると、A社は「会社への資金の調達」や「お互いの事業の拡大」について話していましたが、いずれは全ての工程を機械化しCさんを追い出す計画なのではないかと疑い始めました。

今回A社のような会社があったのだから、Cさんに協力する事に興味がある他の大手包丁会社もあるはずだと考え、別の会社へ相談に行くことにし、A社からのオファーは断ることにしました。

A社の商品のラインナップの増強や高価格帯商品への挑戦にはCさんの協力が必須で、Cさんを追い出すことなど全く考えていなかったとしても、その点をCさんに強調して伝えられなかった為に、余計な心配をさせてしまい、結果として破談となってしまったのです。

この例からA社が学べる事は、何でしょうか。

まず、最初のB社買収が成功したことで、M&Aのプレゼンはお互いの会社の利益が一致していれば上手くいく、と信じたA社が、同じ態度で職人Cさんの会社と交渉していたことと、M&A後の将来像がお互い一致したものを共有できなかったことが(破談につながった理由として)一番大きいでしょう。

今回は、大手企業と職人の会社という事例でしたが、M&A後の会社編成の為に売却側がM&Aに乗り気でなくなってしまう事は、大企業同士でもあり得る話です。