中小規模の会社や飲食店など経営者が事業承継をする場合、経営者の子供などの親族へ引き継がせる「親族内承継」がありますが、それが難しい場合、「従業員への親族外承継」という方法があります。

これまで事業承継といえば、親から子への親族内承継が圧倒的に多かったのですが、近頃では少子化の影響で親族内承継が難しくなり、次善策として、自社の従業員への事業承継も行われています。

会社や事業を熟知している従業員に引き継いでもらう

例えば、飲食店では経営者が引退する際には、伝統の味を守るため、経営者から子供や孫など直系の親族へ引き継がれてきました。しかし近年、親族による事業承継が減少傾向にあります。

それは先にも述べた通り、少子化という構造的な問題ばかりでなく、経営者や引き継ぐ子供たちの家業に対する考え方、価値観の変化があります。好きでもない家業を継ぐより、自分の選んだ仕事で力を発揮したい子供と、自分のような苦労をさせたくない親のある意味利害の一致によって、親族内承継が減少しているところがあります。

そこで、親族内承継に代わって次善の策として利用されているのが、従業員への親族外承継です。親族ではないにしても、今まで苦楽を共にしてきた仲で、親族よりも仕事を熟知していることも多いですから、引き継いでもらう相手としては最適です。

また、後継親族がいる場合でも、未成年であったり経験が浅い場合に、「ワンポイントリリーフ」として役員などに一時引き継いでもらうこともあります。

従業員への親族外承継でのメリット・デメリット

従業員への親族外承継のメリットは、気心の知れた自社の従業員が相手ですから、外部の会社に引き継いでもらう時のような不安やリスクも少なく、廃業を回避できることです。

現経営者の経営理念、企業文化、組織システム、管理体制などについても把握しています。また、長年経営者の片腕として支えてきた役員や従業員であれば、経営にも精通しているはずです。取引先や金融機関からの同意も得やすく、他の従業員などからの信頼感もあります。安心して会社や事業の引き継ぎが可能となり、その後の継続的な発展、成長なども期待できます。

ただ、仮に役員や従業員が引き継いだ場合でも、雇用されている立場ですから経営者としての経験はありません。そこで、事業承継に際しては、事前にある程度の時間をかけて、経営者としての心構えなどについて指導しておくことが重要です。

また、役員などの場合は経営者と年齢が近いこともあるので、次の事業承継をも視野に入れながら行う必要があるでしょう。その際、経験は少なくても体力・気力が十分にある若い従業員を、早い段階から経営者候補として育成することが大切です。

従業員への親族外承継でのデメリットとしては、現経営者の親族など周囲からの理解や同意を得るのに、親族内承継に比べて時間がかかることです。親族にとっては、従業員とはいえ身内でない人を経営者にすることに抵抗を持つこともあります。また、後継する従業員の親族から反対され、事業承継がうまく運ばないこともあり得ます。

そして最大の問題は、自社の株式を引き継ぐだけの資金があるのかということです。そのための資金調達手段を考える必要があります。そのほか、株式の分散リスク、現経営者の個人保証や抵当権への対応などからトラブルに発展することもあるので注意が必要です。

近年、事業承継は親族内承継だけでなく、従業員への親族外承継も増えています。従業員への親族外承継では、そのメリットを最大限活用し、デメリット対策を講じることで、廃業することなく会社や事業を存続させることができます。

文:特定行政書士 萩原 洋