西郷隆盛は、『言志四録』から101条を抜き出し、「南州手抄言志録」として活用していたことが知られています。前回からその言葉を紹介しています。
『言志録』から28、『言志後録』から20、『言志晩録』から29、『言志耋録』から24となっています。佐藤一斎は88歳まで生きましたが、世代が違うこともあり、西郷は直接、教えを受けたわけではありませんでした。『言志四録』は長く、そして広く多くの人に愛読されていたことがうかがえます。佐藤一斎が67歳から78歳まで記した『言志晩録』は、『言志四録』の3巻目に当たりますが、政治家だけではなく、経営者、起業家などにも好まれる言葉が多いと言われています。そのためか、西郷も『言志録』より多い29の言葉を選んでいます。
こうした言葉は、ハウツー(書かれた通りにやれば成果が出るもの)ではなく、心構えや気持ちのあり方、態度を示唆するものが多く、抽象的な印象もあるでしょう。ただ、噛みしめていくと、自分の中で具体化していく力がこの言葉にはあるのです。普遍的な人間の心理に触れているため、今日でもそのままで通用する部分もあります。
西郷隆盛は歴史的な成功者でもありながら、そこに満足せずちょっと複雑な生涯を送りました。ですが、そこには人間らしく生きよう、命を燃やして終わらせようという強い心があったのではないでしょうか。
ビジネスの場面で、私たちをより前に向かわせるもの、よりよい結果を生み出す原動力、さらに相互に理解を深めて満足できる成果を得るためには、こうした心に響く言葉を探ってみる時間を持つことはプラスになります。即効性はないかもしれませんが、私たちのアウトプットに大きく影響するはずです。私たちは自分の心を言動として外に出す、または内に秘めることで、日々生きています。こうした言動や態度、つまり日常をコントロールしているのは心だからです。
心は現在なるを要す。事未だ来らざるに、邀(むか)う可からず。事已(ことすで)に往(ゆ)けるに、追う可からず。纔(わずか)に追い纔に邀うとも、便(すなわ)ち是れ放心(ほうしん)なり。(『言志晩録』175 心は現在なるを要す)
●心は今
心は今この時にあること。まだなにも実現していないうちに、それを手にすることはできない。もう過ぎてしまったことも、追いかけようがない。追えないものを追おうとし、現実になっていない未来をいま手にしようとあくせくしても、自分の心を失うだけだ。