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「寛懐」和を保つだけでは済まない時|M&Aに効く言志四録

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西郷隆盛も愛読したといわれる『言志四録』。西郷はそこに何を読み解いたのか?(ac-yuki・iStock)

西郷隆盛の選択

 今回から、西郷隆盛が『言志四録』から選んだ101の言葉から、経営や仕事にも大きく影響する言葉、人間力を磨く言葉を見つけていきましょう。さっそく一言。

寛懐(かんかい)にして俗情(ぞくじょう)に忤(さから)わざるは和なり。立脚して、俗情に堕ちざるは介(かい)なり。(『言志後録』111 和と介)

●逆らわず流されず

世の中の雰囲気や気持ちに逆らわないでいれば、調和を保つことになる。自分の考えをはっきりさせて、世の中の動きに流されないでいられれば、自身を守ることになる。

「和」は、調和を保つこと。「介」は自分の心を守ること。「介」はいろいろな意味があります。介添など「なかをとりもつ」、介護など「たすける」意味でよく使われますが、「貝」と同じ意味でも使われ(魚介)、「かたい」「しっかり守る」意味も含まれています。

 また、寛解は医学でよく使われていますが、落ち着いて安定した状態です。一方、寛懐は、寛(ひろくゆるやかな)懐(おもい)ということでしょう。立脚は立場です。立場を明確にすること、自分の立ち位置、考えを明確にすることと解釈できます。

 和はとくに日本的な美徳として長く知られてきました。長い物に巻かれるのも、時には和を重視する意味で必要とされました。しかし、決断をするときに、和を考えるだけでは足りない事態もあるのです。

 そのときは、立脚しながらも、常識や世の中の方向、場の空気に流されない強さも必要となります。そうしなければ、自分の心(志)を守れないからです。

 和(協調)だけではなく、介(守り)も必要です。自分がこれからやろうとしていること。それは和なのか介なのか。意識的に使い分けていかなければ、大きな目的を果たすことはできないのです。

 グローバル社会の中で資本の移動が自由となった世界では、M&Aはダイナミックな経営判断の一つとなっています。規模の大小にかかわらず、海外企業や異業種など、話を進める相手は多種多様になっています。海外ファウンダーによって起業したベンチャーを買収する、海外ファンドによって再建された企業と組む、まったく違う業種と組むなどなど、利害関係者は多種多様になっています。これまで敵対していた相手や、ライバルとして切磋琢磨していた相手と組むこともあり得ます。

 佐藤一斎の『言志四録』を自分のものとしていた人物の一人である、西郷隆盛。言わずと知れた明治維新への大きな一歩となった薩長同盟の当事者です。敵対していた者が組む。大きな決断だったはずです。そこに和と介の選択があったのではないでしょうか。

 当時の状況をちょっとだけ、おさらいをしておきましょう。

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