「克己」判断を誤らないための心|M&Aに効く言志四録

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判断に迷わず誤らず、壁を超えよ!(bee32/iStock)

元気があればなんでもできる!?

濁水(だくすい)も亦(また)水なり。一たび澄めば清水と為る。客気(かっき)も亦気なり。一たび転ずれば正気と為る。逐客(ちっかく)の工夫は、只だ是れ克己(こっき)のみ。只だ是れ復礼(ふくれい)のみ。(『言志晩録』17 克己と復礼

●カラ元気も元気

 濁っている水も、水であることには変わりない。澄んでくれば清い水になっていく。カラ元気も元気であることには変わりない。うまく本当の元気に転じることができればいい。カラ元気の「カラ」の部分を追い払えばいいのだ。そのためには、孔子の言葉にある「克己復礼」を思い出してほしい。

 カラ元気。空元気と漢字で書くわけですが、「空」には中身のないうつろな状態といった意味もあります。どうも元気が出ない。心が前に向かっていかない。そんなときには、カラ元気でもいいじゃないか、というのです。そこから、「カラ」を取り除けば、本当の元気になるから……。濁った水を濾過し、上の方だけも澄むまで静かに待つように、ニセの元気も本物の元気にできるのです。

己を克(せ)めて礼に復(かえ)るを仁と為す(typhoonski/iStock)

 克己復礼は、『論語』にある言葉です(顔淵第十二の一)。弟子の顔淵から「仁」について問われ、孔子は「克己復礼為仁」(己を克(せ)めて礼に復(かえ)るを仁と為す)と応えたというのです(岩波文庫版・金谷治訳)。

 自分に勝つ、克服すること。そして礼の根本に立ちかえることが、仁なのだ、というわけです。仁と礼については、『M&Aに効く論語10 プロトコルとしての礼』をご参照ください。私たちが仕事をする上で、すでに確立され多くの人の共通認識となっている行動様式(プロトコル)に立ちかえることも大事だというのです。

「元気があればなんでもできる!」はアントニオ猪木の名言ですが、プラス思考の典型としてとらえられがち。でも、もしかすると『論語』から来ているのかもしれませんね。だとすればとても含蓄のある言葉です。

 簡単にいえば、「おはようございます」「ありがとうございます」といった行動様式に基づく言葉一つでも、カラ元気から「カラ」を吹っ飛ばして本当の元気にしていく効果があります。

 礼には、心を「今」にスイッチする効果もあります。目の前にいる人(上司、同僚、お客さまなど)に向って「こんにちは」と声をかける瞬間。それはまぎれもなく「今」なのですから。私たちは、未来も過去も自由にはできません。ですが、今この時、目の前のことに集中することで新たな道が拓けていくのです。

※漢文、読み下し文の引用、番号と見出しは『言志四録』(全四巻、講談社学術文庫、川上正光訳注)に準拠しています。

文:舛本哲郎(ライター・行政書士)

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