IPOを目指すスタートアップの成長を加速するM&A活用術と留意点|EY新日本 IPOグループ統括 藤原選氏に聞く(後編)

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買収先B/Sに未計上の無形資産等の価値をどう見積もるかが、IPOに影響することも

―「のれん」以外で気をつけた方が良いポイントは何かありますか。

例えば、顧客との契約、商標ブランド、特許権等の法的権利など買収先のB/Sに計上されていない無形資産等に価値があるかどうかも、十分に検討してPPA(Purchase Price Allocation)を行う必要があります。

PPAとは、取得した対価を買収会社の資産・負債に配分する手続きのことですが、PPAの結果、識別された無形資産の償却年数により、今後の損益の計上額が変わることもあるので注意が必要です。当該PPAで配分されなかった残額が「のれん」であり、のれんを含む無形資産が多額になる場合は今後の費用負担を増大させるので、M&Aの実行前に、会社として何を目的に買収したのか、その金額や償却年数を十分整理しておく必要があります。

IPOを目指すスタートアップは、識別された無形資産等を反映した事業計画をベースに企業経営していくことになりますが、無形資産の種類によって価値の存続期間が異なり、会計上の償却期間も違ってくることもあるので、その辺も十分検討しなければなりません。その検討が甘く損益の出方の変化を把握できていないケースは非常に多いですね。

スタートアップは新規ビジネスが多いので、償却年数がそれほど長くなるケースは多くありませんが、「のれん」算定に使用した事業計画と実績値の乖離率など、どういう兆候があったら「のれん」の減損を検討するのかという「減損テスト」の社内ルールを事前に決めておくこともIPO上とても大切です。また、会計上の損切だけでなく、どのような事態になったら買収事業から撤退するかの基準を「事前」に決めておくことも無駄な損失を回避するためにとても重要ですね。

―「のれん」や無形資産の問題がIPOに影響を及ぼすリスクはありますか。

IPO軸でいうと、主幹事証券会社・東京証券取引所の審査では、直前々期以降に行われた合併、株式交換などの買収で、申請会社の財政状態及び経営成績に「重要な影響」を与える場合、期間比較性の観点も考慮して慎重な審査が行われます。特に、多額の「のれん」が計上されている場合、事業計画の妥当性に加えて減損テストの状況について確認が行われるので、より一層の注意が必要です。上場の際の開示書類において「事業等のリスク」などの適切な開示を求められる可能性もあります。

一方、M&Aの「のれん」等の減損というリスク面の開示だけでなく、今後の開示においては、M&Aをどう活用して企業価値を上げるのかという戦略やM&A後のパフォーマンスを測るKPIも含めた非財務情報をIRとして積極的に開示するべき時代に入ってきているので、そういったことも見据えて積極的な開示の準備を行っていただきたいです。

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