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成長戦略実行計画案でSPACの制度整備の検討が示される
米国では2020年に実施されたIPO全体の5割強がSPAC(Special Purpose Acquisition Company)の上場であり、日本でも実現を望む声が多数聞かれていたところです。
近年、スタートアップが上場前にM&Aを活用して事業を多角化・拡大してIPOを目指すケースが増えています。第3回はM&Aを成功に導くための法的スキームや会計処理などについて、EY新日本有限責任監査法人でIPOグループ統括を務める藤原選氏(公認会計士)にアドバイスしてもらった。(前編はこちら)(中編はこちら)
―スタートアップの場合、どのような買収スキームを使うのが良いのでしょうか。
M&Aには、会社分割、株式交換、株式譲渡、事業譲受、合併、さらには新しい株式交付制度(※1)など、多様な法的スキームがあります。それぞれ複雑で、会計・税務・労務・業法の関係などを考慮しなければならないので、採用するスキームに問題がないかどうか、どのスキームが最適なのかについては、弁護士や税理士、会計士、あるいはM&Aのエキスパートなど、専門家に多面的に相談することをお勧めします。特に、業法が絡んで許認可や届け出が必要な事業の買収は、申請や届け出等が適切に行われないと事業活動が停止になるリスクがあるので、注意が必要です。
また、買収先企業のビジネスリスクも考慮する必要があります。例えば、たくさん在庫を抱えている企業の場合、在庫の陳腐化や過剰・滞留に起因して評価などの問題で損失が出るリスクがあります。そのような在庫リスクを避けるには、思い切って受注生産に切り替えてしまうといったビジネスの商流を再設計する奥の手があります。PMIのプロセスで、ビジネスプロセス自体を変えてリスクヘッジする方法は、覚えておいて損はないと思います。
―M&Aで問題になりがちな「のれん」について教えていただけますか。
M&A投資が失敗する際に生じる会計上の問題が、「のれん」の減損です。平たく言えば、高値掴みして投資額を回収できないということです。買収先のビジネスの状況が思わしくないにもかかわらず、当該企業に投資しているVCのリターンを反映した価格で交渉が行われることが原因になることもあります。その見極めができず、高いバリュエーションのまま高値で買収してしまうと、数年後に投資額が回収できない事態に陥り、「のれん」の減損損失が生じてしまいます。
特に、買収先がアーリーステージのスタートアップの場合には目ぼしい資産を持っておらず、投資額のほとんどが「のれん」になってしまうので、その「のれん」は何年で投資回収できるのか、ひいては会計上の償却年数は何年になるかなどをしっかり検討しておくべきです。買収後の損益の出方、すなわち中期事業計画にも影響してきますので。
なお、「のれん」の算定は、買収先企業がスタートアップの場合、貸借対照表(B/S)は税法ベースで作成されていることが多いため、税法ベースのB/Sに対して企業会計で求められる不良資産(債権、在庫等)の評価損、簿外債務のオンバラス(資産除去債務等の未計上の債務の追加計上等)の調整などを行ったうえで算定します。当該修正をすると純資産が減少することが多いので注意が必要です。純資産が減少すると、「のれん」は当初の想定額より増えてしまうので十分検討しないといけません。
1番厄介なケースは、訴訟を抱えている場合や、顕在化していないけれど発生が予見される債務リスクがある場合です。そういうときは、損失の債務計上だけで済むならば良いのですが、コンプライアンスの問題が絡むなど訴訟リスクがあると、手に負えないので、しっかり法務デューデリジェンスを行っておくべきです。
米国では2020年に実施されたIPO全体の5割強がSPAC(Special Purpose Acquisition Company)の上場であり、日本でも実現を望む声が多数聞かれていたところです。