上場準備会社が常勤監査役等選任の前に理解しておくこと

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※画像はイメージです

ビズサプリの久保です。

スタートアップ企業が、VC(ベンチャーキャピタル)から出資を受けるようになると、取締役会を設置していない会社ではその設置が求められます。そうなると監査役の選任が必要になりますが、この段階では、名ばかりの監査役でも問題にされないことが多いと思います。

事業が拡大し、上場準備に入る会社は、監査役会または監査等委員会を設置することになります。そうなると、監査役等(監査役または監査等委員)は3名以上必要となり、そのうち1名は常勤者にすることが求められます。

今回は、上場準備会社が監査役等を選任するに当たって、理解しておくことを解説したいと思います。

上場準備会社の常勤監査役の仕事

そもそも常勤監査役等はどんな仕事をするのでしょうか。

会社法上、監査役等は、取締役の職務の執行を監査するとされています。この監査は業務監査と会計監査に分けることができます。この点は、監査役会でも監査等委員会でもほぼ同じです。

上場準備会社は、上場会社並みの運営をするので、常勤監査役等の仕事は上場会社と同じです。しかし、上場準備会社の状況は、次の3点で上場会社と大きく異なります。その結果、常勤監査役等に求められるスキルや仕事の内容が違ってくることになります。

・企業規模が小さい
・内部統制が整備・運用されていない
・先輩監査役と補助者がいない

(1) 企業規模が小さい

東証一部に直接上場する会社は別にして、マザーズ上場を狙う会社が上場準備を始める場合、その売上高は5億円から15億円ぐらいと思います。業種によりますが、社員は20名から80名ぐらいが多いのではないでしょうか。

これぐらいの会社規模の場合、社内外で何が起こっているかは比較的容易に理解できます。高度な技術やビジネスモデルを採用する会社であっても、能力・経験のある常勤監査役であれば、会社の状況を理解するのにそれほど時間がかからないと思います。

売上高が数千億円以上、子会社50社レベルの会社でも、監査役は3名から5名程度ですので、マンパワーとしては1名の常勤監査役で十分と言えます。

(2) 内部統制が整備・運用されていない

上場準備会社では、内部統制すなわち会社の管理体制が整備されていないのが普通です。内部統制の構築と改善は、上場準備中に行う重要な作業になります。

これは常勤監査役による監査上大きな問題になります。常勤監査役の業務監査には不正やコンプライアンス違反を指摘するという仕事が含まれます。内部統制が整備・運用されていないということは、不正やコンプライアンス違反が発生するリスクがあるということです。

このため監査役等は、内部統制の不備を指摘しつつ、不正やコンプライアンス違反の発見にも努める必要があります。

内部統制上の問題を抱えたまま上場申請することはできませんので、上場前に問題を解決しておくことが必要となります。常勤監査役は、内部統制の改善状況を監視することも行います。

上場準備中に、重大な不正やコンプライアンス違反が発覚した結果、上場できなかった事例があります。このようなことにならないように、内部統制の不備を早急に改善しておくことが必要となります。

このような観点から、監査役会等が内部監査部門を直轄し、監査役等が内部監査の指揮命令を行うのが良いのではないかとも考えられます。しかしこのような体制を採用する会社は、東証一部上場会社の一部にはありますが、新規上場会社のなかではほとんどありません。

これは、内部監査の役割は、社長の指揮命令の下で内部統制の不備がないかチェックすることであると考えられているからです。社長を頂点とする会社組織におけるPDCAサイクルのCを担うのが、内部監査の位置づけと考えられているのです。

監査役等から見ると業務監査の観点では内部監査部門が内部監査を実施し、会計監査の観点では監査法人が会計監査を実施します。監査役等はその両者と連携して監査を実施します。このように3つの監査が連携して実施されるため、これらを総称して三様監査と呼ばれます。

(3) 先輩監査役と補助者がいない

最後に、先輩監査役と補助者がいないというのも上場準備会社での典型的な状況です。大規模な上場会社の場合、常勤監査役等が2名以上置かれており、先輩の常勤監査役等から業務を学ぶことができます。しかし、上場準備会社では1名が普通であり、前任者がいないので、引継ぎを受けることもできません。

また、大規模な上場会社では、監査役室等が設置されており、そこには複数名の補助者が在籍しています。しかし、上場準備会社で監査役等の補助者を置いている会社はほとんどないと思います。このため、常勤監査役等は1人で監査に当たる必要があります。

先輩や補助者の助けを借りることができないことから、常勤監査役等は実務経験があり、基本的な素養をすでに身に付け、さらに最新の法令を自ら学ぶ能力を持っている必要があります。

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