M&Aで「水平展開」と「垂直展開」を急げ

では、大林組が海外で生き残るためにはどうすればいいのか?一つには「水平展開」。いわば「稼げる地域を広げる」ことだ。同社が北米、東南アジアに続く「第3極」として目をつけているのは中東・オセアニア地域。中東ではアラブ首長国連邦(UAE)やカタールに拠点を開設。カタールでは地元資本とのJVで商業施設の再開発事業に取り組んでおり、2013年には首都ドーハ旧市街地の大規模再開発工事を初受注した。大林組の受注額は、オフィスや集合住宅などの建設で約329億円に上る。今後も大林組の技術力と地元資本のネットワーク力を生かして受注増を目指す。

オセアニアではニュージーランドで高速道路工事を手がけている。オーストラリア(豪州)でも2016年、シドニーに本社を置く建設会社「ビルト社」と業務提携した。営業情報を共有し、共同企業体として現地プロジェクトに応札する。ビルト社は豪主要都市で商業施設やオフィスビルなどを手がけ、年間売上高は600億円を超す。大林組は2012年に豪州事務所を開設したが、建築での受注実績はなかった。現在は業務提携だが、いずれはM&Aに発展する可能性もある。

大林組設計本部では、グローバル人材の育成に力を入れ始めた。海外留学や海外設計事務所への出向など海外で働く機会を増やし、現地で仕事をしなければ得られない経験を積ませるという。これにより海外の土木・建設ニーズを的確に把握することを狙う。海外市場を開拓するためには、日本の本社が変わらなければいけないのだ。

ウォータービューコネクショントンネルおよび グレートノースロードインターチェンジ建設工事
ニュージーランドで大林組が手がけたウォータービューコネクショントンネルおよびグレートノースロードインターチェンジ建設工事

もう一つは自社の得意技術を深掘りし、付加価値の高い工事を受注する「垂直展開」だ。大林組では日本の山河をまたぐ鉄道や高速道路網の建設で培ったシールド工法によるトンネルや橋脚の工事など、他国のゼネコンにはないノウハウを持つ。これらを最大限に生かし、技術的に難しい施工案件の受注を目指す。こうした工事であれば中国のスーパーゼネコンや韓国の建設会社も参入が難しく、価格競争力に陥らない。大林組が苦しんでいる海外事業の利益率向上にもつながる。

談合事件でケチがついたが、リニア中央新幹線工事は大林組の技術力なしに施工は難しい。こうした次世代鉄道技術は、新興国や発展途上国はもとより欧米先進国でもニーズが高い。海外で同様の計画が立ち上がれば、大林組にとって巨大なビジネスチャンスになる。

価格競争に陥って体力を失っては、日本の家電やパソコン業界と同じ過ちを犯すことになるだろう。海外市場で売上増を狙うのではなく、利益増を目標とする健全な成長を目指すべきだ。これは「大林組にしかできない工事にしか手を出さない」ということだが、企業はどうしても目の前の受注に飛びつく「習性」がある。その「習性」を抑え込むためにも、「大林組にしかできない工事」を増やす必要がある。技術力の向上は、大林組の長期戦略において最大の課題だ。先端技術を持つ企業とのM&Aにも取り組み、スピード感のある技術イノベーションを期待したい。

シールドマシン
世界でも最先端のシールド工法(同社ホームページより)