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【これからM&Aをする人に】とっておき情報 社労士・中小企業診断士の資格を持つ税理士が見てきたものとは(上)
M&Aは極秘で進められるため、経営者によるスピーディーな意思決定と行動が重要だ。またM&A後に現場をまとめるのは覚悟がいる。経営者が覚悟を示せば、職場が変わる。職場が変わると社員の意識も変わる。
栗本鉄工所<5602>の経営姿勢に変化の兆しが現れてきた。5年ぶりにM&A を実施し、積極策に転じたように見えるからだ。2009年にM&Aで3件の売却を行い、事業構造を大きく変えた。これに伴って売り上げは落ちたものの利益率は高まり、体質改善に成功した経緯がある。その後は一進一退の状況が続いていた中での今回のM&Aは、今後の経営の方向を占う一つの材料となる。単発で終わるのか、それとも呼び水となり、積極策に舵を切ることになるのか。同社の経営に関心が集まる。
栗本鉄工所は2018年2月にコンクリート構造物の補修や補強工事などを手がけるゼンテックの全株式を取得し子会社化した。M&Aを実施するのは5年ぶりのことだ。
ゼンテックは中日本高速道路や東日本高速道路などの補修工事で土木施工技術を蓄積してきた。栗本鉄工所は高速道路用の遮音壁などの道路消音事業を展開するとともに、コンクリート剥離防止材や建設構造物の補修・補強事業にも取り組んでいる。
栗本鉄工所ではゼンテックが持つ技術を有効に活用できるとともに、両社の技術を融合することで新たな技術提案などの可能性があると判断し、買収に踏み切った。
5年前の2013年には、事前に工場で成形したコンクリート部材(プレキャストコンクリート)を建設現場でつなぎ合わせるプレキャスト工法を用いた床版の製造を手がける日本カイザーを買収した。日本カイザーは同年3月に民事再生手続きを申し立て、5月に代理人弁護士が栗本鉄工所をスポンサーとして選定していた。
日本カイザーはマンションやビルなどの建物の床版を施工する際にプレキャストコンクリートを用いる工法で高い技術を持っている。一方の栗本鉄工所は住宅の床などにパイプを敷設する際に使う中空スラブ工法を有し、この中空スラブ工法に日本カイザーの技術を活用できることから買収を決めた。
日本カイザーを買収した2013年は、2009年の構造改革から4年が経っており、この買収が積極策に転じるきっかけになる可能性はあったが、結局この時は単発で終わっている。
M&Aは極秘で進められるため、経営者によるスピーディーな意思決定と行動が重要だ。またM&A後に現場をまとめるのは覚悟がいる。経営者が覚悟を示せば、職場が変わる。職場が変わると社員の意識も変わる。