カーライルが連日TOB ユーザベースのプレミアムも破格の水準

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カーライルによるTOB プレミアムは72%

2022年11月9日15時00分、NewsPicksやSPEEDAを運営するユーザベース<3966>は、米投資ファンドのカーライル・グループが運営するファンドの特別目的会社によるTOBの開始とそれに対する賛成を公表しました。

株式会社 THE SHAPER による当社株式等に対する公開買付けに関する 賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ

買い付け価格は1株あたり1,500円で、公表直前の終値871円/株に対して72%のプレミアムとなります。前日に公表された東京特殊電線<5807>のプレミアム156%には及びませんが、それでも72%のプレミアム水準は、やはり「破格」といってよいと思います。

とはいえユーザベースの場合、2020年12月に上場来高値4,445円を示現後、米国事業の撤退による失望から株価の下落トレンドが続き、2022/10/3には上場来安値を更新する618円を示現するなど低迷が続いていたため、長期保有株主の多くはこの価格でもあまりハッピーでないかもしれません。

交渉の経緯は、TOB賛成意見表明の適時開示資料によると、以下の通りです。

まず、対象会社は、フーリハン・ローキーをフィナンシャルアドバイザー及び第三者機関として起用し、株価算定を依頼しました。

資料で開示されているのは、交渉に使用された「初期的算定結果」ではなく、「最終合意時の算定結果」ですが、フーリハン・ローキーによる株価算定の結果は以下の通りであったとのことです。

表1フーリハン・ローキーによる第三者評価結果(M&A Online)

この評価結果を踏まえた両者の交渉の経緯は、開示資料によると下記の通りでした。

表2 価格交渉の経緯(M&A Online)

東京特殊電線のケースと異なり、対案としての価格提示は行っていませんが、事実上DCF法の中央値以上かつ年初来高値以上を要求し、最終的にその要求が通ったという経緯であると読み取れます。

カーライル側は、今回のケースでもDCF法の結果をあまり信用せず、類似会社比較法の下限値寄りのところから交渉を開始しましたが、最終的には東京特殊電線のケースを超え、類似会社比較法のレンジを超えたDCF法でしか示現しない水準で合意しています。

円安是正なら買収価格より安い株価でIRR15%達成

それでは、前回の記事同様、IRR15%の勝算を分析してみましょう。

今回の対象会社は、前回と異なり、先端分野のSaaSビジネス企業で業歴も若いベンチャー企業ですので、マーケットの期待はかなり高く、公表直前株価ベースの短信公表予想PERですでに64.3倍がついていました。

買収価格ベースでは110.7倍という非常に高いPERとなります。

ここからさらにIRR15%を円建てで達成しようとすると非常に高い成長を達成せねばならないところですが、前回の記事で述べたとおり、カーライルは米ドル(USD)建ての投資家ですので、円安の是正により企業間物価購買力平価近辺への円高を想定すると、3年後の円建て目標株価は1,358円となります。

何と、為替の影響で円建てでは買い値を下回る株価となっても、USD建てではIRR15%が達成できてしまうことになります。

高いPERがネック

よって、このまま現状を維持できれば黙って持っているだけで円安是正でハッピーエンドというシナリオもあり得るのですが、しかし現状の64.3倍という非常に高いPERが3年後も維持できるかどうかは疑わしい所です。

特に、高PERの場合、わずかなPERの変化が株価に大きく影響します。

例えば、公表直前株価ベース64.3倍だったPERが3年後60倍に低下したケースを考えてみます(表3中の想定PER①~必要CAGR①)。円建て目標株価1,358円に必要なEPSは22.63円となります。この場合、EPSの3年間のCAGRは19%必要です。

また、さらにPERが低下して、IT企業でも比較的よくある水準の30倍になったケースを考えてみます(表3中の想定PER②~必要CAGR②)。この場合、必要EPSは45.27円となり、必要CAGRは49%という非常に高いものとなります。

IRR15%達成はそう簡単ではない

PERというのはマーケットの期待です。それは人間心理の一面でしかなく、移ろいやすく儚いものですから、いつまでも高く維持できる保証はどこにもありません。

PER100倍というのは、逆数にして利回りにしたら1%ですから、CAPMモデルに照らしても長期持続可能な倍率ではなく、利益がいずれ10倍に成長してPER10倍=利回り10%になるとマーケットが期待しているからついている倍率です。利益成長期待がはがれてしまえばあっという間に10倍、8倍と下がります。

為替の追い風はあるにせよ、やはりある程度の利益成長がなければ、本件でのIRR15%はそう簡単ではないのではないかと思います。

賛成意見表明資料には、数々の成長に向けた施策も記載されていることですし、対象会社のような小規模な企業の場合、施策がかっちりとはまれば利益が10倍、100倍と大化けすることも多いものですから、ここからがカーライルの腕の見せ所というところでしょう。

文:巽 震二(証券アナリスト/フリーランス・マーケットアナリスト)

※本記事に記載されている個別の銘柄・企業名については、あくまでも執筆者個人の意見として申し述べたものであり、その銘柄又は企業の株式等の売買を推奨するものではありません。

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巽 震二 (たつみ・しんじ)

フリーランスマーケットアナリスト。
証券アナリストとして大手証券会社調査部勤務後、専業個人投資家に転身。
アベノミクスの波に乗って2015年、目標資産残高を達成し、トレーディングもめでたく卒業。 現在はフリーランスマーケットアナリストとして活動中。本連載はペンネームで寄稿している。


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