M&Aが中小企業の大事な投資のオプション(選択肢)の1つであることは紛れもない事実である。今後は経営戦略上欠かすことのできない戦略となるはずである。しかし、課題が山積しているのも事実である。中小企業M&A成功の秘訣について考えてみたい。

1.戦略の明確化…成長ストーリーを語れるか?

事業自体の戦略が明確でない企業が実は多い。自社の将来の方向性を定め、それを実現するために必要な経営資源を特定し、自前でそろえるのか外部から取り入れるのかの比較検討を行わなければならない。外部から取り入れる方法として買収や提携を模索してみる。特に買収となれば、被買収企業のリスクを丸ごと抱えることにもなる。

どういう将来を目指しているのか。どのような経営資源が欲しいのか。まずはこの2点をはっきりさせておかないとM&Aが成功する確率はかなり低くなると思って間違いない。大切なのは、まず「将来の成長ストーリー」を語ること。そのストーリーの骨子となる前提条件が曖昧だと、買収後のPMI(統合プロセス)がより難しくなり、結果、何の効果も見いだせないまま失敗に終わったディールを私は何度も見てきた。

2.任せる仕組み…トップ同士が信頼関係を築く

これは、グループ経営に関する認識不足と具体的なプラットフォームの不足を指す。少しわかりづらいかもしれないが、根気よく読んで頂きたい。グループガバナンスでは、株主である親会社が子会社の経営に関して規律付けを行う必要がある。経営者の選解任や報酬体系への関与、経営者の不正などへの監視がこれにあたる。

よくあるのが、買収した企業の経営者の処遇を決めることができない、たいした信頼もないのに何となく経営を任せている、などガバナンスの基本を忘れたかのような対応が横行しているケース。

最終的には買収した側の経営者が不満を募らせる事態になるのだが、そうなってから収拾を図ろうにも難しいことが多い。こういった事態を避けるためにも、買収後の処遇に対する考えや自社との相性を、買収する側のトップ自身が十分に確認しておくことが大切である。

任せられない経営者と判断したのなら、その人は買収後に別のポジションについてもらうべきだし、もしそれが不可能なら買収自体を考え直したほうがよい。失敗の確率を高めるだけである。

逆に、買収する側のトップと相手先の経営者が信頼関係を築くことができれば、買収後に多少のトラブルが生じてもホットラインで対処することができる。よく、買収後になって被買収企業経営者のためのレポーティング・ライン(報告経路)を作り、親会社の部門長などをレポート先とするケースを見かけるが、これは被買収企業経営者の不満のもとである。

必ずトップ同士が腹を割って話し合える関係とその具体的なラインを構築しておくべきである。「あなたに任せていますよ。でも、ちゃんと見てますからね。」というメッセージを常に送ることが必要だ。

3.経営管理…企業価値向上への仕掛けづくり

組織として経営がうまくいっているのかどうかを見ることができる仕組みや仕掛け。M&Aを行うにあたってはこうしたプラットフォームがあるかどうかは成否の分かれ目となる場合もある。M&Aに成功する買手はこの経営管理システムの強化を必ずと言っていいほど実行している。

誤解があるといけないので、念のため強調しておくが、ここでいう経営管理とは真に企業価値向上のために経営を行っていくうえで必要かつ十分な情報を共有でき、それに基づいてより良くするための施策を講じられてこそのデータインフラのことを指す。経営管理にあたり何が必要なのか、何が見たいのかを具体的に決めることなく、インフラが乏しいというだけの理由で高額なERP(基幹業務システム)を導入し、宝の持ち腐れになるケースだけは絶対に避けるべきである。 

この3つが中小企業のM&Aに足りないものの代表例である。M&Aはいわば「外科手術」である。手術自体が成功してもその後合併症が起こったりするのは当たり前で、元通りの健康体になるには時間と労力が求められる。その手術前に術後回復した時のシナリオをリスクシナリオも含め検討しておくことが、M&A後のPMI成功のカギを握っていると常々思っている。

文:Antribe社長・小林伸行(M&Aアドバイザー)