M&Aによる事業の譲り受けの検討にあたっては対象会社の基本情報として登記簿謄本や定款の取得がマストである。その際の確認事項と注意点について述べたい。 

まれに、役員任期が切れていることが…

【役員の任期及び員数】
中小企業においては登記簿謄本を確認すると、役員の任期が切れていることがまれにある。これは厳密にいうと会社法違反であり、過料による制裁が定められている。しかしながら、実態として悪意のないまま役員が執務を続けているケースがこれにあたる。設立が古い会社であれば特に注意が必要である。定款の整備が行われておらず、旧法時代の任期がそのまま放置されていることもまれにある。

【譲渡制限の定め】
通常は定款で株式に譲渡制限の定めを設定している会社が多い。譲渡制限の内容は謄本で対外的に公示されている。実務的には、譲渡制限の承認機関は取締役会、株主総会、代表取締役の3パターンが大半である。

たまに譲渡制限の定めが設定されてない企業に出くわすこともある。これは昭和41年の改正前の商法においては株式に譲渡制限を定めることができなかったことに原因の一部がある。昭和41年より前に設立されている会社には特に注意が必要である。もし、株主が転々と変遷しているような場合はクロージングの手続きにも大きな影響がある。譲渡承認の有無については必ず定款と登記簿謄本セットで確認することが大切である。

対象企業の本店が社長の自宅であるケースも

【本店所在地】
言われてみれば当たり前だが、実務ではよく起こる見過ごしの一つとして本店所在地がある。つまり会社の本店所在地が、売り手社長の自宅になっているケース。その場合はクロージングに伴い、対象会社の本店所在地を変更する必要があるので、本店所在地は必ず事前に確認しておく必要がある。

【その他、注意すること】
中小企業のM&Aに影響を与えるものとして、定款に種類株の定めがあるケースがある。種類株の中でも「無議決権株式」が含まれていると議決権比率に影響を与えるので注意が必要である。ただし、種類株を発行している場合は登記簿謄本にも記載されているので、そちらでも確認することは自体は可能である。

また、種類株に似たものとして「属人の定め」が定款に定められていることがある。属人の定めとは、(1)剰余金の配当を受ける権利、(2)残余財産の分配を受ける権利、(3)株主総会における議決権について株主ごとに異なる取扱いを行う旨、を定款で定めることである。

これによって議決権比率が変わってくると事業譲渡や会社分割のスキームの際には株主総会の特別決議に影響を与えることになるし、株式譲渡の場合でも譲渡承認機関が株主総会だと影響を与えることになる。属人の定めは種類株とは異なり登記によって公示されないのでその点も注意が必要である。定款を読み込まないと見逃すリスクがある。

定款と登記簿謄本との食い違いは珍しくない

今回の内容は実際のM&Aの現場で遭遇する確率は低いかもしれない。ただし、万が一遭遇して見逃した場合は致命的となるので、事前に定款と登記簿謄本をセットで確認するという癖をつけておくことが大切になる。

実務上の深刻な問題として、中小企業の定款と登記簿謄本の食い違いはよくあること。よく、登記簿謄本だけを取り寄せて判断しようとしているケースに出くわすが、それは完璧にナンセンスなので、注意してもらいたい。

文:Antribe社長・小林伸行(M&Aアドバイザー)