都市部では在宅勤務を積極的に推進する大企業が多く、インターネット回線さえあれば「疎開」できる環境にある従業員も少なくない。子どもがゴールデンウィーク明けまで休校というケースでは、感染を懸念して家族ぐるみで一時移住する動きが出ているのも事実だ。
しかし「疎開」が安全とは限らない。地方がこうした「疎開」を警戒する背景には感染拡大の予防という側面もあるが、感染症医療の体制が脆弱で感染爆発が起こった場合は対応できないという差し迫った事情もあるからだ。
地方に「疎開」したとしても、感染症を発症した場合のリスクは政府が宣言に基づいて医療リソース(資源)を集中しつつある都市部よりも、むしろ高まることに留意すべきだろう。自分自身と地方医療の「共倒れ」になる可能性を考慮すれば、「疎開」は得策ではない。
政府や宣言対象地域の自治体も「性急な帰省または県外移動は控えて頂きたい」(東京都)、「不要不急の帰省や旅行など、都道府県をまたいでの移動は極力避けて」(神奈川県)と、地方への「疎開」自粛を訴えた。
にもかかわらず「疎開」を懸念する地方の知事や市長が都市住民へのあからさまな「拒否反応」を公言した。
相次ぐ「疎開自粛」が合理的な正論であることは間違いないが、知事や市長による厳しい批判が大都市住民との間に「心理的な軋轢(あつれき)」を生む可能性もある。そうなれば、新型コロナ感染症収束後の「観光客離れ」にもつながりかねない。
行政トップの発言は、しばしば一部だけがクローズアップされて「独り歩き」する。「都市住民が困っている時は来るなと言っておきながら、収束したら手の平を返したように観光誘致か」といった、誤った反発を引き起こしそうな「言質」を残すべきではないだろう。「疎開」を懸念する自治体の多くは、観光やリゾート産業が地域経済を支えている。知事や市長には冷静な発言が求められている。
文:M&A Online編集部