鎖国から鎖県へー相次ぐ「来県自粛要請」は地域経済の禍根にも…

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に対応するため、2020年4月7日に政府が東京都など7都府県を対象に法律に基づく「緊急事態宣言」を出した。これを受けて全国の自治体トップから「来県自粛」を求める声が相次いでいる。国内感染の拡大までは中国や韓国などからの入国を制限すべきだとの「鎖国」論が広がったが、ついに「鎖県」論にまでエスカレートした格好だ。

全国で「コロナ疎開」の自粛要請が相次ぐ

伊原木隆太岡山県知事は同7日の記者会見で、同宣言が出された都市から感染者が少なく大型商業・スポーツ・娯楽施設が稼働している地方へ一時的に居住地を移す行動を「疎開」と表現。「疎開者が何千人も出たら、ウイルスをばらまき、日本全体をさらに悪化させる。東京や大阪、兵庫からの来訪を全く歓迎しない」と具体的な都府県名を挙げて厳しい口調で警告した。

沖縄県の玉城デニー知事も同8日の記者会見で、宣言対象地域の7都府県からの沖縄訪問を自粛するよう呼びかけた。SNSで「南の島は安全」との書き込みが広がり、同3月に大都市圏から若者や家族連れが殺到した石垣島では、中山義隆石垣市長が同3月31日の記者会見で「発熱やせきの症状のある方や体調の優れない方については来島の自粛をお願いしたい」としていたが、同4月6日に全面的な来島自粛要請に切り替えた。

新型コロナウイルスの感染者がいない鳥取県の平井伸治知事は宣言発出が確実と伝えられた同6日に、観光や「疎開」のための来県を「一概に禁止はできない」としながらも、「緊急事態宣言の対象地域の人は、その意義を深く理解するべきだ」と牽制(けんせい)している。

首都圏(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県)の一角である栃木県でも、同7日に会見した福田富一知事が指定地域から同県内の実家や別荘地に一時移住する動きについて「コロナ疎開という言葉もあるが、歓迎はできない」と釘を刺した。

コロナ終息後の観光産業に悪影響を与える懸念も

都市部では在宅勤務を積極的に推進する大企業が多く、インターネット回線さえあれば「疎開」できる環境にある従業員も少なくない。子どもがゴールデンウィーク明けまで休校というケースでは、感染を懸念して家族ぐるみで一時移住する動きが出ているのも事実だ。

しかし「疎開」が安全とは限らない。地方がこうした「疎開」を警戒する背景には感染拡大の予防という側面もあるが、感染症医療の体制が脆弱で感染爆発が起こった場合は対応できないという差し迫った事情もあるからだ。

地方に「疎開」したとしても、感染症を発症した場合のリスクは政府が宣言に基づいて医療リソース(資源)を集中しつつある都市部よりも、むしろ高まることに留意すべきだろう。自分自身と地方医療の「共倒れ」になる可能性を考慮すれば、「疎開」は得策ではない。

政府や宣言対象地域の自治体も「性急な帰省または県外移動は控えて頂きたい」(東京都)、「不要不急の帰省や旅行など、都道府県をまたいでの移動は極力避けて」(神奈川県)と、地方への「疎開」自粛を訴えた。

にもかかわらず「疎開」を懸念する地方の知事や市長が都市住民へのあからさまな「拒否反応」を公言した。

相次ぐ「疎開自粛」が合理的な正論であることは間違いないが、知事や市長による厳しい批判が大都市住民との間に「心理的な軋轢(あつれき)」を生む可能性もある。そうなれば、新型コロナ感染症収束後の「観光客離れ」にもつながりかねない。

行政トップの発言は、しばしば一部だけがクローズアップされて「独り歩き」する。「都市住民が困っている時は来るなと言っておきながら、収束したら手の平を返したように観光誘致か」といった、誤った反発を引き起こしそうな「言質」を残すべきではないだろう。「疎開」を懸念する自治体の多くは、観光やリゾート産業が地域経済を支えている。知事や市長には冷静な発言が求められている。

文:M&A Online編集部