日本航空(JAL)の元CA(客室乗務員)の水橋史希子さんは8年前に起業し、現在「言葉の種まきアドバイザー」という肩書きでコンサルティング活動を行っている。
水橋さんが26年間のCA時代に痛感したことは、日本人のコミュニケーション下手。パソコンやスマホの時代になって、ますますコミュニケーション力が低下している。コミュニケーション力はビジネスパーソンにとって、もっとも重要なソーシャルスキル。
「企業に半年とか1年間お邪魔して、社長や管理職とスタッフの間のコミュニケーションをつくるきっかけ作りを指導しています。人生の多くの悩みは、人との関係から生じるものが多い。人とうまくコミュニケーションできれば多くの悩みは解決できます」
客室乗務員のナッツの出し方に腹を立て、飛行機をUターンさせた航空会社の副社長がいる。これは極めて特殊なケースだが、狭い機内では小さなトラブルはよくある。CAを束ねるチーフパーサーの経験もある水橋さんは「一度もトラブルはなかった」という。
「普段飲まない方が飲んじゃって、気分を悪くするお客さんがいる。そういう方には、例えば飛行機は富士山で言えば、6合目ぐらいになるからアルコールが早く回ってしまうんですよと。あ、そうなんだと分かっていただける。早めに〝言葉の種まき〟をするのが客室乗務員の仕事。早め早めにトラブルの芽を摘めば、問題の発生は防げます」
「言葉の種まき」とは、ちょっとしたひと言を添えるだけで相手との会話が良好になるコミュニケーションの方法。厳格にマニュアルを守るのではなく「お客様とサービスする側が対等の立場で、その方に応じて対処していく」のが、本当のおもてなしなのだ。(次回は4月24日掲載)
文:大宮知信
1948年 茨城県生まれ。ジャーナリスト。政治、教育、社会問題など幅広い分野で取材、執筆活動をつづける。主著に『ひとりビジネス』『スキャンダル戦後美術史』(以上、平凡社新書)、『さよなら、東大』(文藝春秋)、『デカセーギ─漂流する日系ブラジル人』『お騒がせ贋作事件簿』(以上、草思社)、『「金の卵」転職流浪記』(ポプラ社)などがある。