企業の人事担当者が退職後、経験を基に人事コンサルタントになる。これはよくある話で、珍しくない。だが、元警察官の人事コンサルタントというのはあまり聞いたことがない。クリアウッド(千葉市)代表取締役の森透匡(ゆきまさ)さん(52)は、詐欺や横領、贈収賄など知能犯の捜査を担当してきた元刑事。7年前に退職し、今は人事コンサルタントとして、刑事時代の知識と経験を活かし、ビジネスで役に立つウソ(人間心理)の見抜き方を全国に広げ、悪いウソにだまされないための活動を展開している。

東日本大震災を機に起業

別に後ろめたいことはないが、相手が元刑事となるとちょっと緊張する。森さんに強面のイメージはない。「講演会場で司会者と間違われることもありますよ」と笑う。

講演や研修で全国各地へ飛び回る日々。新幹線で地方へ行く直前に話を聞いた。正義感に燃え、高校を出て千葉県警の警察官になった。27年と5カ月間警察に在職。そのうち20年間は私服で様々な犯罪捜査に当たる刑事を務め、35歳で警部に昇進した。現職時代は、贈収賄や選挙違反、詐欺など知能犯の捜査を担当してきた。

親方日の丸の安定した仕事を捨てて独立したことに周囲は驚いた。「ノンキャリだからね。俺の将来はこうなるだろうという先が見えてくるわけです。警察の息苦しさとか組織が嫌だった、ということじゃなく、新たな分野に挑戦したかった」

転機は東日本大震災の災害出動。60数人の部下を連れて被災地へ入った。「津波で街が消え、多くの人命が失われた。そういう現実を目の当たりにした時、人間って本当にいつ死ぬかわからない。生きているうちに何か挑戦したいな」と46歳のときに転身を決意。

その時点で頭にあったのは起業だった。起業本やビジネス書を手当たり次第に読みあさった。40代半ばでの独立に、大概妻は反対するものだが「本を読んだら俺は絶対起業家に向いている。警察とは違う世界で何かできるんじゃないかと、根拠のない自信があった。女房もしょうがないわねと」反対はしなかったという。

2012年にデザイナーの弟とコンサルタント会社「クリアウッド」を設立し、代表取締役に就任。企業経営者や人事担当者向けのセミナー「刑事塾」を始めた。(次回は3月12日掲載)

文:大宮知信