「胸次清快」クリアな心を持つ|M&Aに効く言志四録

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大きな節目となる転換期。この変化に積極的に関わっていく姿勢も求められる(metamorworks/iStock)

苦しい時こそ

初めからすべてが備わった人などいない(iStock/3D_generator)

 とはいえ、苦しい仕事、苦しい状況が続く中ではなかなか前を向けないこともあるはず。そんなときは、どうすればいいのでしょうか?

朝にして食わざれば、則ち昼にして饑(う)え、少にして学ばざれば、則ち壮にして惑う。饑うる者は猶お忍ぶ可し。惑う者は奈何(いかん)ともす可からず。 (『言志耋録』140 少にして学ばざれば、壮にして惑う)

●混乱の原因

朝食を抜いたら昼にはお腹がすく。それと同じで、少年時代に学びが足りなければ、壮年になってから判断などで混乱しやすくなる。空腹はある程度我慢できたとしても、リーダーが決断すべきときに混乱していてはどうにもならない。

 いまから少年時代に戻って勉強し直すことはできませんが、「どうもおかしい」と気付いたら、それは識見や知識の欠落かもしれません。自分に欠けていたとしても、識見を持つ人、知識のある人に意見を求めて、混乱から脱するのもいい方法でしょう。

人は須(すべか)らく忙裏(ぼうり)に閒(かん)を占め、苦中に楽を存する工夫を著(つ)くべし。 (『言志耋録』113 忙中の閑、苦中の楽)

●苦しいときにも楽しみを持つ

忙しくて落ち着かないときにも、静かな時と同じような心の穏やかさが必要だ。苦しい状況に陥っているときも、楽しめる工夫が必要だ。

 これはかなり難しいのですが、おそらく経験によって養えるのではないでしょうか。過去に似たような事態に直面したことはないでしょうか。受験とかスポーツの試合など、なんでもいいのですが、忙しすぎたときを思いだして、心を落ち着かせ、苦しいときのことを思い出して、それでも楽しいと思えるタフネスを取り戻しましょう。

凡そ人事を区処(くしょ)するには、当(まさ)に先ず其の結局の処を慮(おもんばか)って、而る後に手を下すべし。楫(かじ)無きの舟は行(や)ること勿(なか)れ。的(まと)無きの箭(や)は発(はな)つこと勿れ。 (『言志耋録』114 仕事のやり方二則その一)

●仕事のやり方

仕事に取りかかるとき、それがどのようなフィニッシュを迎えるのかよく考えて手をつけること。舵の壊れた船や、的外れの矢にならないようにスタートしたい。

 これも簡単ではありません。見通しというか、落とし所を見極めてから手をつけても遅くはないのです。どうなるかわからない中で進むより、目標を見据えて行動した方がいい結果に結びつきやすいでしょう。

 ちなみに、西郷は選んでいませんが、仕事のやり方のその二は「ゆっくり取り組めることこそ早くやってしまえ。急ぐことこそ、ゆっくりやれ」といった意味の言葉でした。

 少しは心に晴れ間が見えてきたでしょうか。次回から2021年をよりよい年にするために、これまで紹介していない佐藤一斎の言葉から紹介していく予定です。

※漢文、読み下し文の引用、番号と見出しは『言志四録』(全四巻、講談社学術文庫、川上正光訳注)に準拠しています。

文:舛本哲郎(ライター・行政書士)

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