恐らく、心の中で、はっきりと意味付けされていない自分自身の思いが、世の中で起きている事態に反応して言動として表出していくので、きちんと対応するためには、まず自分の心の中をクリアにせよ、ということでしょう。自分がどんな思いを持って生きているのか。それを明確にできてはじめて、正しい対応へとつながるのです。
自身の胸の内を今一度、確認するのに役立つ言葉を紹介しましょう。
遊惰(ゆうだ)を認めて以て寛裕(かんゆう)と為すこと勿れ。厳刻(げんこく)を認めて以て直諒(ちょくりょう)と為すこと勿れ。私欲を認めて以て志願と為すこと勿れ。 (『言志耋録』210 にせものを誤るな)
●本質を見よう
慌てず騒がず心が広い人だと見えたとしても、もしかすればただ遊び怠けているだけかもしれない。何事にも厳格さを求める人だと見えたからといって、必ずしも正直な人とは限らない。一本筋の通った生き方をしているように見えても、必ずしも志を持っているとは限らない。ただの私利私欲かもしれないのだ。
コロナ禍でさまざまな意見が飛び交うSNSなどを見るにつけ、表向きに見えている言動と、その人が持っている本質は必ずしも一致していないのではないかと感じることが増えていませんか。あの人がなぜあんなことを言うのか。こんな意見を言うあの人は、どうしてこのような行動をとったのか。表に出ている部分だけでは、わからないのです。
かといって、誰を信じるか、なにを本当だと認めるのかは、明確な線引きのできないことですし、揺れ動くのも仕方がないことでしょう。ただ、そういう側面もあることを承知の上で自らも行動していくことになるのです。
智仁勇(ちじんゆう)は、人皆謂う「大徳にして企て難し」と、然れども凡そ邑宰(ゆうさい)たる者は、固(も)と親民(しんみん)の職たり。其の奸慝(かんとく)を察し、孤寡(こか)を矜(あわれ)み、強梗(きょうこう)を折(くじ)く。即ち是れ三徳の実事なり。宜しく能く実迹(じっせき)に就きて以て之れを試むれば、可なり。 (『言志耋録』267 智仁勇は実事に試むべき)
●すべて備える人とは?
智も仁も勇も備えた人になれるだろうか。多くの人は「それは難しい」という。しかし、リーダーとして、人々と常に接することこそ本来の職務なのだとすれば、隠された悪事を調べて正していくための智、不幸な人や不遇な人を憐れむ仁、悪をくじく勇気は必要だ。智仁勇の三徳とはそういうことなのだから、自分のできる範囲で少しでも実行に移していければ、それが三徳を備えた人へとつながっていくのだ。
いっきになにもかも最高レベルの人になるのは難しいかもしれませんが、ムリだからと諦める必要はありません。日々の行動で少しずつ発揮していけばいいのです。初めからすべてが備わった人などいないのですから。
毀誉得喪(きよとくそう)は、真に是れ人生の雲霧なり。人をして昏迷せしむ。此の雲霧を一掃すれば、則ち天青く日白し。 (『言志耋録』216 毀誉四則その四)
●悪口、名誉、成功、失敗
悪口、名誉、成功、失敗は人生にかかった雲や霧と思えばいい。雲や霧が晴れず人の心を暗くし、迷わせることもある。心の雲霧をさっぱりと一掃すれば、空は青く太陽は輝き、人生は明るさに満ちていく。
心の内側を観察してみると、人の言葉や、他人からどう見られているのかが気になって、もやもやしてしまうこともあるでしょう。気が晴れないのは、そうした余計なことに気を取られているからかもしれません。
名誉は追わず、悪口は受け流し、成功も失敗も結果と割り切って、自分の進むべき道を行くことで心は晴れやかになっていくのです。
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