【会計コラム】監査法人の交代について

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Image by Gerd Altmann from Pixabay

2.クライアントからみた監査の価値

監査は次の2つの形があります。(「2019年版_上場企業監査人・監査報酬_実態調査報告書」)

・株主から委託された財産を管理・運用した結果を適切に報告していることを監査法人が保証する会社法の監査(利害調整支援型監査)
・資本市場の投資家が資金提供するための意思決定のためにその財務諸表を保証する金商法の監査(意思決定支援型監査)

いずれにしても、監査の受益者である株主や、投資家が監査報酬を直接的に払っているわけではなく、また監査法人の選択を直接行っているわけではありません。

監査報酬をクライアントが支払うことから、監査法人の独立性に疑義があるという指摘が従来からあるものの、現状、意思決定支援型の財務諸表監査では、監査法人が経営者に対して指導を行い、適切な財務諸表を提供することが必要であり、そのためには両者の間に相互信頼を前提にした協働関係が成り立つようにするには、受益者と報酬支払者は異ならざるを得ないという結論になっています。(「2019年版_上場企業監査人・監査報酬_実態調査報告書」)

監査法人の交代の理由がコストだとした場合、つまりクライアントはその支払う監査報酬の金額と提供される監査の価値にギャップを感じているということになります。

では、監査の価値つまり品質というのはどういうものなのでしょうか。

監査の品質に定義は存在しない(監査基準委員会研究報告第4号「監査品質の枠組み」)のですが、上記監査の目的に沿って考えると、形式的にはクライアントからすると資金調達および株主への説明責任が達成できればよい、つまりできるだけ監査費用は低く、早期に終わり、業務への影響が少ないことが物差しとなり、上場会社監査事務所名簿にさえ登録してあればよいことになります。

しかし、個人的にはそうは思いません。

監査法人は、その専門性と他社事例などの広い知見があるのですから、クライアントの事業、規模、状況に応じたいわゆる指導的機能を十分に発揮することにより、クライアントの感じる価値を高めることができるのではないでしょうか。

もちろん、指導的機能が監査の本質的な目的ではないものの、そういったことの積み重ねによりクライアントとの信頼関係が高まり、円滑なコミュニケーションが生まれ監査の本質的な目的である虚偽表示のない財務諸表が効率的に作成され、結果としてクライアントも監査法人も互いにwin-winな関係になるのではないかと思っています。

特にリモート監査で陥りがちなのは、一方的に資料の提出だけを求め、修正事項だけ指摘する。ビジネススキームなどを理解せず、請求書や検収書といった形式的なチェックに終始し、クライアントの事業についてもあまり理解できていないため、結果として報告会においても実態に即した指摘ができず、一般的なものとなり、あまりクライアントとしては価値を感じられないことになるのは避けたいところです。

3.監査法人の選び方

ここ1、2年の交代の増加はクライアントが感じる価値と監査法人の提示する報酬のギャップにより起こっているのではないかと述べましたが、中小への交代を検討する際に、従来問題視されていた事務所としての品質管理については公認会計士協会の品質管理レビューなどによりかなり改善されてきました。

今後は監査法人を選ぶ際もとりあえず大手に依頼しておけばいいというのではなく、きちんと報酬と価値を検討して選んでいくことが重要になると考えています。

大手に依頼することは、他社事例や業種対する深い知見、海外ファームとの提携による幅広い対応、IFRSやUSGAAPなどのJGAAP以外の専門性など中小では対応できないメリットがあります。

半面、大手は公認会計士業界における新人教育を担う立場も負っており、(自分の新人の頃もそうでしたが)小規模な監査チームでは現場は1,2年目の新人ばかりで経験、知識が不足し、かつ毎年新しい新人がきて監査対応の工数がかかりがちです。また、大手ほど投資や間接部門のコストがかるため同規模のクライアントの監査においても中小と比較すると高くなります。

従来は、クライアント側もスイッチングコストを考慮すると継続したほうがよいということで監査法人の交代には積極的はありませんでしたが、今後は会社のステージ、規模、求めるスキルなどを勘案して適切な監査法人を選ぶことが会社、ひいては背後にいる株主、投資家のためになるのではないかと思います。

文:泉 光一郎(公認会計士・税理士)
ビズサプリグループ メルマガバックナンバー(vol.139 2021.8.18)より転載

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