【会計コラム】数字はうそをつかない?

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 ビズサプリグループの花房です。 私が最近読んだ書籍の中で、『Numbers Don’t Lie(世界のリアルは「数字」でつかめ!バーツラフ・シュミル著 NHK出版)』は、会計という、一種の数字を扱う専門家としては、興味深いところがありました。著者曰く、世の中には数字があふれており、とりわけインターネットには日付も出どころも不明なものが多いので、ファクト(事実)をはっきりさせることが重要であり、それにより、世界で今本当に起こっていることを理解出来るということです。

 71個のトピックを、食・環境・エネルギーといった7つの分野で整理してあり、それぞれが納得感のある内容でした。ここで扱われている数字は、国際機関が公表する世界各国の統計、国の公的機関が公表しているデータ、官公庁が編纂した歴史的データ、科学誌に掲載された論文、という信用できる一次データがメインになっているようで、そのような数字を見せられると、嘘ではないのかな、と感じてしまいます。

 出所がしっかりしたデータが前提ですが、確かに感覚だけで話すよりも、金額や物量データをしっかりと示して説明する方が、相手を説得しやすいと思います。以前、証券会社の方から聞いた話だと、お客に具体的な決算データを示して説明できる営業マンの営業成績がいいとのことでした。会計士に限らず、数字の意味を理解し、分析できることは、ビジネスパーソンとして重要な素養だと思います。

1.非財務情報の重要性が高まってきている

 2020年3月期の有価証券報告書から、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」「事業等のリスク」「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」、と言った、非財務情報の拡充が図られています。

 また近年は、ESGへの企業の対応に注目が高まっており、ガバナンス面については、コーポレートガバナンス・コードでの開示である程度開示は充実してきていますが、環境や社会への対応については、サスティナビリティ報告書や統合報告書を開示している企業は比較的積極的に開示していると思いますが、全ての上場企業に求められているわけではないので、開示の程度に格差があります。

 但し、昨年日本政府は、2050年までに脱炭素社会を実現し、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標とすることを発表し、企業はこれに協力していかなければいけませんので、必然的に、今まで情報開示に消極的だった企業も、今後は環境への対応状況についての開示が進むものと考えられます。またそれは見方を変えればビジネスチャンスでもあり、年金基金といった機関投資家の投資の選定基準でESGへの対応状況が重視されてきていることも、企業がESGに対応していかないといけない動機になるとともに、せっかくそのような活動をしているのであれば、当然積極的に開示する姿勢に変わると想定できます。

2.非財務情報開示を誰がチェックするのか

 「数字はウソをつかない」ということですが、それはそのデータが裏付けの取れた、信頼性の高い場合が前提です。企業の財務情報でも、開示側に悪意があれば、簡単に粉飾決算を行い、不正会計が行われてしまうので、上場会社の場合には、公認会計士による監査が要求されています。

 では、非財務情報はどのような専門家がチェックをするのかということですが、これはやはり、保証業務を専門としている大手会計事務所が中心に、担うことになると考えられます。最終的には必ず入出金により取引の正確性を確かめられる財務情報と異なり、非財務情報は物量データを扱い、特に温室効果ガスのような目に見えないものの発生量をどのように測定するのか、という難しさはありますが、そこは大手会計事務所に一日の長があると思います。

 今思えば、私が公認会計士試験に合格して監査法人で働き始めたころは、環境監査の走りの時期であり、その頃は環境問題への対応に関する企業の開示スタイルとしては、環境報告書と言われるものが多かったですが、そこからCSR報告書に変遷し、最近ではサスティナビリティレポート、あるいは統合報告書と呼ばれるものが多くなっています。

 しかしながら、現時点ではこれらの報告書を開示するために、企業が参照している基準は複数存在し、統一した基準があるわけではないのですが、昨年、CDP、CDSB、GRI、IIRC、SASB、という、基準設定団体として主要な5つの団体が、包括的な企業報告を目指して協調を進めていくことを表明したり、IFRS財団も国際サステナビリティ基準審議会(SSB)を設立する等、統一、あるいは協調に向けた動きはあるようです。

3.環境問題と経済成長は両立出来るのか

 私が大学生だった1997年に、気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3、地球温暖化防止京都会議)が開催され、日本は議長国を務めました。当時私は技術論という講義を受講しており、その先生からCOP3について詳しく教わった記憶があります。

 その頃の日本は、環境問題を世界でリードする立場だったと言えます。しかしながら中国は参加せず、アメリカは2001年に離脱したことで、実行性が失われてしまいました。しかしアメリカでは昨年バイデン政権となり、気候変動政策は優先課題となりました。

 そして今年の4月に米政府の主催で開催された気候変動サミットでは、参加各国が2030年までの温暖化ガスの排出削減目標を公表しましたが、日本は2013年度比で46%減、アメリカは2005年度比で50~52%減、EUは1990年比55%減と、削減目標に差があります。比率だけで見ると日本は少ないようですが、2030年度との比較年度は各国まばらで、これは、削減率が最大となるよう、各国とも比較年度を選んでいること、また日本は省エネへの取り組みが早く、元々ある程度削減してきているため、削減率だけで単純に優劣は判断出来ないことになります。

 これはいずれの国にとっても相当高いハードルだと思います。経済成長を諦めて大昔の生活スタイルに戻れば実現できるのかもしれませんが、経済成長しないと資本主義経済は成り立たないでしょう。従来の利益至上主義とは異なる、環境に配慮した持続可能な経済成長を模索していかなければならず、技術革新によりそれは実現出来るものと信じたいと思います。

 「数字はウソをつかない」、の著者が『物事は深く、同時に広く、見なければならない…数字は必ず多角的な視点から見なければならない。情報に基づいて絶対的な価値を評価するには、相対化や比較化という視点が必要なのだ』、と言っている通り、数字のみから事実を判断をすることは難しく、その前提条件や他の指標と比較して初めて、数字の意味するところが明らかになります。

 基本的に情報の発信者は、自分が有利となるように数字を公表するものです。その裏側にある事実を見極め、数字に騙されないようにしていきたいものです。

文:花房 幸範(株式会社ビズサプリ パートナー 公認会計士)
株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.135 2021.6.9)より転載

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