ビズサプリの三木です。今年はマスクを着用することが多く、また一段と暑さを感じてしまいます。熱中症にならないよう乗り切りたいものです。

このところ会社のM&Aに絡む仕事が立て続けに舞い込んでいます。新型コロナによる景気への影響は産業によってムラが大きく、街中の居酒屋やレストランは廃業してしまったところもある一方で、7月初旬に公表された日銀短観でもITや建設はむしろ景気の見立てがプラスとなっています。もともと事業承継に悩んでいた会社が前倒しで売却に動いたり、コロナショックがむしろプラスに働いた会社がM&Aの好機と捉えたりしているケースもあるかもしれません。

今回は、そんなM&Aの大まかな流れと、私なりに感じている注意点を取り上げます。

1.M&A内容の検討

■マッチング
まず買い手と売り手の候補がいなければM&Aは始まりません。このマッチングはM&Aの仲介会社や金融機関が行うケースが多いですが、当然ながら最初は匿名で仲介者を介して業種、規模などの情報をやりとりしつつ、先のプロセスに進むかどうかを検討していきます。

売り手と買い手がある程度絞られてきたら、秘密保持契約を締結し、買い手側企業が意向表明書をまとめます。これは、希望する提携形態、希望価格、スケジュール、必要な意思決定プロセスなどをまとめたもので、ここで指定した方式に沿ってその後の手続が行われていくことになります。

■デューディリジェンス(DD)
買収過程の大きな作業として、DD(デューディリジェンス)があります。これは買収監査ともいわれ、買い手が売り手の帳簿や各種契約、ビジネス状況や社内管理体制を細かくチェックして、売上は帳簿に記載されている通りか、隠れ負債は無いか、後々問題となるような契約を締結していないかなどをチェックしていきます。

このDDは、財務、法務、ビジネスの各方面で行われますが、短期間で売り手の会社の状況を見極めなければならないため、弁護士や公認会計士など専門家が中心となって調査を進めていきます。

■価格算定
DDと同時進行で価格の算定が行われます。価格算定には様々な方法がありますが、主だったところでは純資産法(帳簿上の純資産をベースにする)、マルチプル法(類似上場企業の株価をベースにする)、DCF法(将来の事業計画上のキャッシュフローを割引計算する)があります。とはいうものの仮定を少し変えるだけで価格は大きく変わりますし、売り手は高く、買い手は安く買いたいという交渉要素もあります。M&Aにおける価格算定は絶対的なものではなく、その後の交渉のベースとなるものと言えます。

■ストラクチャ検討
もうひとつ並行して進めないといけないのが、ストラクチャの検討です。単純に株式を移転するM&Aもあれば、持株会社を作ってぶら下げる方法、営業譲渡する方法など様々な方法があります。買い手または売り手が複数社のグループである場合、どこの会社がどこの会社の株を所得するのか決める必要もあります。

取得も100%とは限らず、マイノリティ出資にとどまるケースもあります。こうしたストラクチャをどうするかにより、その後の提携の仕方だけでなく、税務も大きく影響を受けます。例えば、売り手企業に多額の繰越欠損金があれば、それを節税に有効活用できるスキームにしないと損です。また、M&Aの後には連結で多額ののれんが生じることも多く、買収後に自社の業績にどう影響するのかも検討が必要です。ストラクチャは、最初からある程度描けていることもあれば、DDの結果を踏まえて修正することもあります。

また、業態によっては、監督官庁の許認可や、独占禁止法などの法令に触れないかようなストラクチャにする必要があります。クロスボーダーM&Aでは現地国の法令チェックも欠かせません。

もちろんDDで出てくる情報は、ストラクチャや価格算定上も極めて重要です。DDの結果による補正を加えながら価格とストラクチャを練り上げていきます。

2.クロージングと契約

DDを経て売り手と買い手が折り合ったら、クロージングに向かいます。クロージングの上での重要事項としては、契約書の締結と価格決定があります。会社の価格算定は一定の基準日をもって行われますが、会社の価値は実際には日々変動しています。このため、大きなM&Aでは価格修正条項を付して、基準日以降に発生した巨額損失などについて、一定の算式で価格を調整する文言を付け加えることがあります。

また、バイオベンチャーなど変動要素の大きな企業を買収する場合は、買収後に一定の目標を達成した場合に事後に買収価格を修正し、追加支払いをする条項(アーンアウト条項)を付け加えることもあります。

なお、価格修正条項やアーンアウト条項は、理屈の上では極力取り入れたい条項に思えますが、適切に計算式を定義できなければ意味がありませんし、計算式に曖昧さが残ると逆にトラブルの種にもなります。このため中小企業のM&Aではこうした条項は設けないことが多く、短期的な損益よりも10年20年の長期スパンで企業価値を図る視点で交渉が行われることが多いように感じます。

このように価格決定と変動にかかる計算式を確定出来たら、それを盛り込んだ最終契約を策定します。この最終契約に盛り込まなかった事項は後で取り返しがつきませんので、弁護士やM&Aの専門家を交えて慎重に検討する必要があります。長かったM&Aプロセスも大詰めですが、最後の最後まで気が抜けません。

3.Post Merger Integration(PMI)

株式の移転が成立したら、登記など株式関連の事務の作業を経て、次にPMI(Post Merger Integration)を行います。

PMIは、M&A後に子会社にしておくのか吸収合併等に進むのかによっても変わりますし、子会社にしても少数株主がいるのか、オートノミー経営のスタイルをとるのか等によっても変わってきます。PMIはどのような形態が企業価値を高めるかという経営判断により範囲や深度が変わるものであり、統合すればよいというものではありません。やみくもな統合は亀裂を招くこともあり、加減が重要です。

一般的に経理や総務といった管理部門は集約することでコストダウンを図ることが多いですが、人事についてはビジネスに合った給与水準やインセンティブ形態を維持するために、敢えて集約しないことも多くあります。

システムも大きな要素です。システムが分かれたままだと非効率ではありますが、システム構築にはお金がかかるため、次のシステム更新のタイミングまでは統合しないという判断もあり得ます。現実には、システムが複雑すぎて手を付けられず、複数のシステムを跨いだ業務運営が長く続くケースも見受けられます。

合併まで進む場合で、特に相互の規模感が対等に近い場合は、内部で主導権争いが生じることもあります。こうなると本業に割くべき力をそがれてしまうため、意図的に買い手でも売り手でもない新しい会社という社内文化を作っていくケースもあります。例えば、新社名や会社のロゴ、社内制度などは一新してしまい、人事についてもゼロベースで再構築するようにする等です。

4.M&Aで躓かないためには

M&Aの過程には様々な困難があります。価格が折り合わずに頓挫することや、中小のオーナー企業では旧オーナーの待遇が決まらない、あるいはオーナーの「心変わり」で案件自体が消滅することも珍しくありません。

■コンプライアンス
近年は、上場企業のみならず非上場企業でも大企業ほどコンプライアンス意識は高くなっています。一方、小規模なオーナー企業では、公私の区別が不十分で黒とは言わないまでもグレーな支出が行われていることもあり、それがネックとなってM&Aが進まないことも増えているように感じます。今後事業承継を考える小規模企業では、「身ぎれい」にしておくことも選択肢を増やすことにつながりそうです。

■DDを充実させる
M&Aのゴールは最終契約書ではなくビジネスの発展です。M&Aで失敗リスクはゼロにはできませんが、不要なリスクは当然避けるべきであり、そのためにはきっちりしたDDが必要です。例えば、物流を統合したいという目論見のあるM&Aでは、物流システムは統合できそうか、そのためにはどの程度の期間やコストがかかりそうかもDDのテーマとなります。技術者が欲しいM&Aであれば技術者の給与水準が課題となります。DDは弁護士や公認会計士といった専門家に任せっきりでは、こうしたビジネスの観点が手薄になります。

「M&Aを通じて何を目指したいのか」についてDDチームとしっかりしたコミュニケーションを取る必要があります。

■高値掴みを避ける
しっかりしたDDを行うことは、買収したい一心で高値掴みすることを防ぐ意味もあります。M&A後に生じるのれんは、ひとたび減損となると業績へのダメージが甚大です。そもそも高値掴みをしてしまうとのれんも多額であり、すぐに減損の危機にさらされます。亀田製菓は2019年2月に株式会社マイセンの株式90%を取得し子会社化し182百万円ののれんを計上しましたが、それからほぼ1年後の2020年3月期の決算で145百万円ののれんの減損(おそらく償却額を除いた全額)を計上しました。これは亀田製菓としては規模がそこまで大きくない話でしたが、高値掴みにより短期間で多額の減損を計上すれば、経営責任を問われることは避けられません。

■買収前の体制
法令違反に鈍感な会社や管理体制が極端に貧弱な会社を買収すると、特に上場企業では買収後に大きな問題を生じる恐れがあります。買収後に経理が混乱しJSOXの不備につながった事例もあります。M&Aを活発に行う会社では、こうした内部統制に係る視点もDDでチェックするポイントとして買収に関する社内ルールにしておくことも全社的統制の一環と言えるでしょう。

文:三木 孝則(ビズサプリCEO 公認会計士)
株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.122 2020.8.19)より転載