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新型コロナ対策 決算・株主総会・減損処理の対応はどうなる?

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※画像はイメージです

新型コロナウイルス感染症の企業対応について

ビズサプリの辻です。今回の新型コロナウイルス感染症では、企業は事業面、人事労務面、資金面等多くの面で事業継続に向けた危機管理を行う必要があります。まさに事業継続計画の実践です。

今回は、企業のそのような対応の一助になるべく、決算、株主総会に対する対応及び公表文書等をご紹介していきます。ただし、ここでご紹介した対応についてはコロナウイルスの状況に応じて刻々と更新されていきます。最新の情報は、今回ご紹介したHPの最新の情報をご確認下さい。

1.決算発表及び業績予想について

コマツは、3月31日に2020年3月期連結決算発表を当初予定していた4月30日から5月18日に延期すると発表しました。コマツによると、「世界各国で社員が出社できず、在庫の確認など決算に必要な情報がまとまっていない。監査法人の担当者も在宅勤務となり、会計監査の一部業務に支障が出ている」とのことです。(日本経済新聞電子版3月31日付より抜粋)

上場会社は、四半期及び年度末に決算の内容を開示することが証券取引所のルールとして定められています。この期限は、遅くとも決算期末日後45日であり、決算期末日後30日以内の開示が望ましいとされています。前述のコマツはこの「望ましい日程」での決算発表を予定していましたが、世界各国の子会社の会計情報が予定通りには集まらず、また監査も受けられないため、延期の発表をしたものでした。世界中で混乱が生じている今、恐らく同様の状況に陥っている会社は多くあるでしょう。このような状況をいち早く把握し、延期の発表を早期に実施できるということは決算における危機対応がある程度うまくいっている例かと思われます。

東証 確定次第で差し支えなし

今回、新型コロナウイルス感染症の状況を受け、東京証券取引所からは、2020年2月10日付で「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取り扱い」(https://www.fsa.go.jp/ordinary/coronavirus202001/01.pdf)を発表しています。ここでは、新型コロナウイルス感染症の影響で決算内容を確定することが困難になった場合には、45日ルール等の時期にとらわれず、確定次第開示することで差支えないとしています。また、このように決算発表が遅れることが見込まれる場合には、その旨、確定見込みがある場合にはその時期を適時開示することが推奨されています。

また、合わせて業績予想について、「今般の新型コロナウイルス感染症が事業活動及び経営成績に与える影響により、決算内容の開示に際して業績予想の合理的な見積もりが困難となった場合や、開示済みの業績予想の前提条件に大きな変動が生じた場合などにあっては、その旨を明らかにして、業績予想を「未定」とする内容の開示を行い、その後に合理的な見積もりが可能となった時点で、適切にアップデートを行うことなどが考えられます。」としています。

業績予想を「未定」とする選択肢があることを踏まえつつ、「何でもコロナのせい」という思考停止に陥ることなく、早期に見積もり開示していくための情報収集と正しい現状認識をしていくことが必要です。そうすることがアフターコロナで大きな差を生むことになりそうです。

2.有価証券報告書等の開示書類について

金融商品取引法のもとでの開示書類については、通常の提出期限は「有価証券報告書」「内部統制報告書」については、事業年度末から3か月以内(3月末決算であれば、6月末まで)となっています。(なお、四半期報告書は、四半期末日から45日以内)。これについて金融庁は、2020年2月10日付で「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」
https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200210.html)を公表しました。

金融庁 延長申請は所管の財務(支)局に相談を

これによると、「中国子会社への監査業務が継続できないなど、やむを得ない理由により期限までに提出できない場合は、財務(支)局長の承認により提出期限を延長することが認められていますので、ご遠慮なく所管の財務(支)局にご相談下さい。」とあります。

この金融庁の公表日は2月10日なので、中国子会社に対する監査業務が継続できないといった例示が上がっていますが、3月決算会社を考えると中国に限らずグローバル全体で決算及び監査ができない状況があり得ると考えられます。

この場合に提出期限の延長の申請を行う事ができることになりますが、提出期限の延長に関する申請を行う際には、上場会社であればその旨の適時開示が必要となります。こちらは、先ほどの東証の「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取り扱い」でも記載されていますのでご留意ください。

また、ここ数年、有価証券報告書の非財務部分についてステレオタイプの記載ではなく、各社自身で記載内容を充実させることが求められてきました。

新型コロナウイルス感染症に対する企業に対する影響を非財務情報でどのように開示していくかも大きな課題となるでしょう。例えば「事業等のリスク」の記載に追加し、今回のような世界的なパンデミックになった場合にどのような影響を受け、それがどのように業績に影響を与えるのかを記載することになることが考えられますが、その記載に先立ち影響の現状把握を進めていくことが必要となります。

3.減損等の会計処理について

上記で決算確定後の発表、開示について述べてきましたが、見積もりの要素が多い決算作業において、そもそも決算数値を固めることが困難な状況が生じることも多くなると考えられます。これについて2020年4月2日に日本経済新聞に「店舗・工場の減損見送り 金融庁等新型コロナに対応」といった見出しで、資産の減損に関する会計基準を変えることなく、減損に対して企業や監査人が柔軟に判断できるようにするといった記事が出ました。

減損の判定は困難が伴う

これに対して、日本公認会計士協会は、4月3日に「昨晩および今朝の会計ルールの弾力化に関する報道の内容については、当協会から発したものではありません。」と発表しています。確かに会計基準の適用が企業や監査人によって、何らの目安なく「弾力化」されてしまっては、それはそれで問題です。

ただ、将来の収益や利益を見積もる必要がある減損の判定は、そもそも難易度が高い会計処理です。新型コロナウイルス感染症の蔓延で急激に業績が悪化しているような業種において、新型コロナウイルス感染症の収束が見えない中、詳細の業績の見積もりについてはかなり困難を伴うことは容易に想像ができます。

なお、前述の日経の記事については公認会計士協会によって否定されましたが、4月3日付で、金融庁が、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けた企業決算の取り扱いについて、日本公認会計士協会や東京証券取引所、経団連などと連絡協議会を設置して、各団体が出席しての電話会議にて協議を行ったことは事実です。そこで新型コロナウイルス感染症による業績悪化が一時的であり、その判断に監査法人も合意できれば、即減損をする必要がないということになったようです(ロイター2020年4月3日)。ただ、これは現状の会計ルール上でも同様の取り扱いであり、何らルールが変わったわけではありません。

4.株主総会について

決算の遅れにより、会計監査人や監査役への計算書類等の提出が遅れてしまうことや、上述した通りに会計監査ができずに会計監査報告の受領が遅れてしまうことも考えられます。この場合、その他の手続きを短縮することで予定通り株主総会が開催できることもありますが、そうでない場合は定時株主総会の開催の延期を検討する必要が生じる可能性があります。

定時株主総会の延期について法務省の見解は

この点、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を理由にする定時株主総会の延期について法務省が見解を示しています。(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html

そこでは、定款で定めた時期に定時株主総会をすることができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるとしています。また配当や議決権の基準日についても述べられています。

一方、予定通り株主総会を実施する場合においても感染拡大防止に向けて運営上の工夫がかなり必要となるでしょう。この点、12月決算の会社が感染拡大傾向であった3月下旬に株主総会を実施しており、その対応が参考になると考えられます。6月下旬がどのような状況となっているかは不明ですが、この運営上の工夫を参考にして準備を進めていく必要があります。

この3月に株主総会を実施した企業の具体策として以下のような取り組みが行われていました。

・総会会場でのアルコール消毒液の設置
・運営スタッフのマスク着用
・通常は受付時に手渡しする書類を会場内で準備
・一定の間隔をあいて着席
・体調不良の方の入場の制限(高齢者、基礎疾患者はご出席をお控え下さいとの記述)
・お土産の廃止の検討
・総会の所要時間の短縮化(シナリオや映像を短縮化)
・株主総会後の懇親会の中止
・来場の方を最小限とするためのWEB配信の充実(及びその連絡)

また、当日会場への来場を自粛したとしても、株主総会の状況を把握するために、IT等を活用して遠隔地から参加することは可能です。(但し、会社法上株主総会の招集に関しては株主総会の場所を定めなければならないとされており、インターネット等を用いた株主総会のみとすることは解釈上難しいと言われています(第197回国会 法務委員会第2号(平成30年11月30日))。

このようなインターネット型の株主総会は、双方向と即時性が確保されない限りは、単なる「参加」であり、当日出席の株主にもカウントされず、また質問や動議も行うことはできません。

但し、最近のアンケート調査で当日の株主総会に参加する株主は、質問や動議を行うよりも経営者の声や、将来の事業戦略を経営者から直に聞くことに意味を見出している場合が多いのが実態ということ(経済産業省 ハイブリット型バーチャル株主総会実施ガイドP8)を考えても、コロナウイルス感染拡大予防のためにも議決権行使は書面などで予め実施して頂き、会場への出席は自粛して当日はインターネットで視聴してもらうことを推奨していくことは株主の安全確保という意味でも必要な措置ではないでしょうか。

なお、株主が来場しない「バーチャル株主総会」に関する論点については、経済産業省が2020年2月26日に「ハイブリット型バーチャル株主総会の実施ガイド」で整理されています。
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf

文:辻さちえ(公認会計士・公認不正検査士)
株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.114 2020.4.8)より転載

・東京証券取引所「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取り扱い
・金融庁「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について
・法務省「定期株主総会の開催について
・経済産業省「ハイブリット型バーチャル株主総会の実施ガイド

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