「その他の記載内容」に関連する監査人の責任について
ビズサプリの泉です。
自分は公認会計士ですが、監査業務に10年以上携わっておらず、監査業務自体に興味が薄くなってきたのですが、今回監査基準について興味深い改訂がなされたため、改訂および改訂を背景とした監査基準委員会報告書の改正についてお話したいと思います。
そもそも、監査の目的とは何なのでしょうか。
監査基準では次のように記載されています。
第一 監査の目的
1 財務諸表の監査の目的は、経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある。
監査の目的とありますが、出だしから“財務諸表の”監査の目的とあり、いわゆる監査の対象は財務諸表であることが前提であり、当然、保証の対象も財務諸表であることがわかります。
自分が監査法人で働き始めた2000年代初めに先輩から教えられたのは、「有価証券報告書の経理の状況以降が監査範囲なので、それ以外の部分、いわゆる有価証券報告書の前半部分は数値のチェック程度でよい」ということで、前半部分はどちらかというとサービスでチェックしていたという感じでした。
ちなみに2000年代初めは会計ビッグバンの後とはいえ、四半期レビューやJSOXもなく、新卒会計士でもクライアントからは先生と呼ばれ、お昼をごちそうになることもあり、今から考えると監査を取り巻く環境は牧歌的でした。
2020年11月6日に監査基準の改訂が公表されました。その中で個人的に興味深かった項目は「その他の記載内容」に関連する改訂であり、次の内容となります。
・「その他の記載内容」に係る監査報告書における記載
・「その他の記載内容」に対する手続き
「その他の記載内容」の検討というと、少し年配の会計士であれば西武鉄道における大株主の記載、最近では日産における役員報酬の記載を思い出す人も多いかもしれません。
この改訂により、監査において財務諸表(及び監査報告書)以外の「その他の記載内容」という、監査人が従来重きを置かずチェック程度であった前半部分について役割及び手続きが明確化され、保証範囲ではないにしても業務の実質的な責任を負うことになったのです。
改訂の経緯としては、「監査基準の改訂について」(2020年11月6日)に近年の経営者による財務諸表以外の情報開示の充実が進み、今後のさらなる充実が期待される中、監査人の役割の明確化、及び監査報告書における情報提供の充実を図ることの必要が高まっていることの記載があります。加えて、監査基準への記載はないものの国際監査基準に財務諸表以外の開示に関して同様の基準があるため、こちらに準拠していくことも改訂の経緯の1つではないかと思われます。