東証市場再編に影響 コーポレートガバナンス・コードの改訂点

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1.コーポレートガバナンス・コードの改訂

2021年6月11日、金融庁と東京証券取引所はコーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」という。)を改訂し、5つの補充原則を新設し、14の補充原則に追加・修正を加えました。

今回のCGコード改訂は、2022年4月より東京証券取引所において適用される新市場区分(「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編)とも関係してきます。

改訂CGコードには新市場区分に沿って、プライム市場上場会社に求める項目、その他の市場(スタンダード、グロース)の上場会社に求める項目、すべてに共通して求める項目が存在します。

特に株式の流動性が高く多くの機関投資家の投資対象となりうるプライム市場上場会社には、日本を代表し国際的にも競争力のある優良企業が集まることが期待され、他の市場上場会社に比し、より一段高いガバナンスを目指す取り組みを期待しています。そのため、プライム市場上場会社に求める項目がいくつか存在します。

主要なCG改訂のポイントは「取締役会の機能発揮」「企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保」「サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み」などです。主要な改訂ポイントについて詳細を述べていきます 。

CGコードの特徴は、「コンプライ・オア・エクスプレイン」(Comply or Explain)です。CGコードを遵守するか否かは企業の判断に委ねられ、遵守しない場合はその理由を説明しなれけばなりません。

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2.取締役会の機能発揮

事業環境が刻々と変化していく企業環境のもとで、企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上を図るためには、取締役会が重要な意思決定を行うとともに、実効性の高い監督を行うことが求められます。今までの経営人材だけではコロナ禍の経営課題を先取りするのは容易でないものとして、取締役会のメンバーに必要なスキルの確保が求められます。

そのために、プライム市場上場会社においては、独立社外取締役の比率を3分の1以上選任(必要な場合には過半数)すべきだとしています(補充原則4-8(3))さらに、取締役会は経営戦略に照らして経営自らが備えるべきスキル等を特定した上で、各取締役の知識、経験、能力等を一覧化したスキル・マトリックスなどを取締役の選任に関する方針・手続きと合わせて開示すべきとしています。(補充原則4-11(1))。

したがって、プライム市場を狙っている上場会社で、独立社外取締役が3分の1を満たしていない上場会社や取締役会メンバーで備えるべきスキルが不足している上場会社は、必要なスキルを持つ独立社外取締役などの確保が必要となってきます。

さらに、取締役会の機能発揮をより高めるために、プライム市場上場会社では、指名・報酬委員会を設置しそのメンバーの過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、その委員会構成の独立性に関する考え方、権限、役割等を開示すべき(補充原則4-10(1))としています。主にCEOなど社内取締役メンバーの人事や報酬に対して独立社外取締役が主体的に関与することは、社内取締役メンバーに対しては強力なガバナンスを効かせることが期待されています。

3.企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保

取締役会などでの多様性の確保については、従前のCGコードでも規定されていました。改訂CGコードでは、多様な視点と価値観の確保は、取締役会のみならず、経営陣を支える管理職層においても必要としています。

また、多様性の例示としては、従前のジェンダー、国際性に加え、職歴、年齢などが追加されました。ジェンダーに関しては、取締役や管理職における女性の割合は低いのが実情です。優秀な人材も出産休暇や出産後の家事と仕事の両立で仕事を制約せざるを得ないことが大きいと思います。女性を活躍させるためには働き方改革についても合わせて検討していく必要がでてきます。

国際性に関しては、外国語によるコミュニケーションの問題もあり外国人取締役や管理職の登用は少ないと思われます。多くの日本の上場企業では海外からの仕入や販売など避けて通れない状況が多いと思います。ビジネス上の考え方も日本と外国では違ってくると思われるので、外国人取締役や管理職の登用は有益ということだと思います。

職歴と年齢に関しては、伝統的な多くの上場会社では、終身雇用・年功序列などで新卒から定年まで1社に長く勤務される方が多いと思われます。終身雇用と年功序列は日本的経営のメリットと言われてきましたが、中途採用で異業種出身者を採用し、若くても優秀な人材は取締役メンバーや管理職に登用していきましょうと言っています。

改訂CGコードでは、多様性を確保し、それらの中核人材が経験を重ねながら、取締役や経営陣に登用される仕組みを構築することが極めて重要であるとしています。

上場会社には多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示し、その状況を開示すことを求めています。また、人材戦略の重要に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境方針をその実施状況と合わせて開示することを求めています。(補充原則2-4(1))。

4.サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み

「持続可能な開発目標」(SDGs)が国連サミットで採択され、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同機関数の増加など、グローバルな社会・環境問題等に対する関心の高まりを踏まえれば、会社はサステナビリティ課題への積極的・能動的対応が重要になってきます。

サステナビリティに関しては、従来よりE(環境)要素への注目が高まっているが、近年では、人的資本への投資等のS(社会)要素の重要性も指摘されているとし、これらの具体的な情報を開示すべきとしています。

また、特にプライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社に与える影響について、必要なデータと分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)またはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべき(補充原則3-1(3))、としています。

上場会社においては、いわゆるESG要素に関する取組等の非財務情報の開示が求められ、特にプライム市場上場会社では、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社に与える影響の情報などが、TCFDまたはそれと同等の枠組みにより、開示情報の比較可能性や一貫性を担保された形で情報開示することが求められます。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の詳細説明は割愛させていただきますが、プライム市場上場を予定している会社はTCFDをはじめとした枠組みに基づく気候変動情報開示への検討が必要となってきます。

文:庄村裕(ビズサプリパートナー 公認会計士)
株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.136 2021.6.28)より転載

関連URL 改訂コーポレートガバナンス・コードの公表(日本証券取引所)

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