トップ > 調べる・学ぶ > M&A実務 > 会計コラム >【コーポレートガバナンス】意思決定の方法について

【コーポレートガバナンス】意思決定の方法について

※この記事は公開から1年以上経っています。
alt

ビズサプリの三木です。

最近、コンビニのアイス売り場に行くと、「ガリガリ君リッチ たまご焼き味」が販売されています。ご興味ある方は一度チャレンジいただければと思いますが、卵焼きのようなカスタードクリームのような焼きトウモロコシのような、ちょっと不思議な味です。同時に、いったいどのような意思決定をすればこういう商品にたどり着くのだろう、と不思議に感じます。

今回は様々な意思決定の方法について、その長所や短所を見ていきます。

1.多数決

集団の意思決定で最もよく使われるのが多数決です。

多数決とは、ある集団において意思決定を図る際に、多数派の意見を採用する方法のことです(Wikipediaより)。

■    メリット
・シンプルでわかりやすい。
・より多くの人が納得する結論となる。

■    デメリット
・少数意見が切り捨てられる。
・強権限者の意見にまとまってしまうことがある。

デメリットの1点目は、例えば選挙で避けられない死票の問題や、少数株主の利益を多数決の株主総会でどう保護するか、といったことです。集団で意思決定する以上は個人の意思と不整合が出てしまうのは避けられませんが、単純な多数決ではそうした人が最大で49.9%発生してしまいます。

デメリットの2点目は「ワンマン社長に逆らえない」といったケースで、日産のゴーン氏の事件などを思い浮かべれば分かりやすいと思います。選挙のように議決が匿名なら回避できますが、企業での意思決定など意見を戦わせる場合は匿名にするのは実質困難といえます。

2.アビリーンのパラドックス

多数決で意思決定をする場合に、逆らえないワンマン社長がいるわけではなくでも、妙な心理が働いて正しく意思決定できないことがあり、代表的なものとしてアビリーンのパラドックスという状況があります。これは、人と違って見えることに気おくれしたり、「自分のような考えを持つことは変なのではないか?」と思い込んでしまうことで、集団全体が間違えた意思決定をしてしまうものです。人の和を重んじる日本ではとても生じやすい状況かもしれません。

例えば、大きな組織の中には、参加者が「この会議何の意味があるのだろう?」と疑問を感じているような会議がしばしばあります。誰かが「この会議、やめよう!」と口火を切れば「そうだよね、この会議いらないよね」「短縮しようか」といった話が出るのですが、「やめよう」と言い出すに勇気がいります。つまり、本心で多数決すれば会議は廃止・縮小されるのに、表立っては反対意見は出てきません。こうした状況に陥ると、現状維持であったり、誰もが反対意見を唱えにくい無難な結論になりやすいことが知られています。

3.多数決の補正

アビリーンのパラドックスで分かるように、集団の意思決定では大胆な経営改革やオリジナリティのある商品開発に二の足を踏んでしまうといった弊害が出てくることがあります。このため、堅実さよりも迅速で大胆な経営が必要であったり、奇抜さやオリジナリティを必要とする業態では、多数決を採用しつつも、工夫を凝らすことがあります。

IT系の会社では、シュルツ方式といって、単純な賛否だけを数えるのではなく、様々な意見に順位付けをして、最上位ではない選択肢にも光を当てるようにしているところがあります。

商品やサービスの開発にオリジナリティが必要な会社では意思決定を多数決で行わず、矛盾しない意見であれば「両方やってみよう」とか、引き返せるような選択肢であれば「ダメもとでやってみよう」といった判断を推奨することもあります。(もちろん、意思決定方法とは別に、失敗を責めない人事評価などの社風づくりも重要です)また、他の議決権者の意見を見ながら自分の意思決定をする「戦略投票」を認めると、意思決定の結果が変わることがあります。

例えばA、B、Cの3つの選択肢があり、自分はA>B>Cの順に良い案だと考えているのですが、自分を除く多数決の状況は、A案が4票、B案が7票、C案が8票だったとします。

ここで自分はベストだと思っているA案に投票してもC案の優位は動かないため、戦略投票ができるのであればB案に投票することでC案との決戦投票に持ち込めます。このように戦略投票を行うと、投票は自分自身の意思表明とは異なってしまうものの、より議決権者がより望ましいと考える方向で意思決定がなされると言われています。

4.エラー排除のための意思決定

2008 年 2 月 24 日、湘南モノレールで約 40 メートルオーバーランして停車する事故が発生しました。この事故の原因は、運輸安全委員会がまとめた調査報告書によると、制御コンピュータに入ったノイズだったようです。

単純作業を代行するRPA、複雑な意思決定をもこなしていくAIなど、人間ではなく機械が意思決定や判断を行うことが増えています。機械は、人間のようなミスはしない一方で、学習不足による判断ミスや、湘南モノレールの事例のように異常値の除外ができないといった機械特有のミスは犯してしまう可能性はあります。

実は機械でも集団で意思決定することがあります。飛行機など事故が致命的な結果を招く乗り物では、重要な操縦装置の制御には複数台のコンピュータによる意思決定を行い、異常値を出したものを排除するようにしています。

私は趣味でスキューバダイビングをしますが、その際にはダイブコンピュータという減圧症(いわゆる潜水病)にならないための潜り方を指示してくれる小さな機械を使います。この機械の中では複数の方法で計算が行われており、最も厳しい計算となったものを採用して指示を出しているそうです。

今後、意思決定に機械が関わることは増えてきます。人間もしばしばエラーを起こしますが、機械も人間とは違ったエラーを起こします。正しい意思決定をするためにも、誤った意思決定を排除していく方法は今後も研究が続くでしょう。

コーポレートガバナンスなど、会社経営に関しても意思決定の議論は多くなされています。その際、登場人物やそれぞれの立場の是非は良く議論されますが、意思決定の方法に焦点を当てることは少ないように思います。

ちょっと考えてみても良いテーマかもしれません。

文:三木 孝則(ビズサプリCEO 公認会計士)
株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.104 2019.11.5)より転載

NEXT STORY