顧問先との面談での話しです。税法で定められていることと他の分野のことで取り扱いが異なるようなことがあります。そのような場合、「税法」と「その他の分野」の話が混同されて、一人歩きをしているような場面を見かけます。

例えば、民法では養子縁組する養子の数の制限はありません。それは民法上の要請や人間感情を考慮してそのような仕組みになっているということです。しかし、相続税法では、数多くの養子縁組をすることによる租税回避を防止するため、「相続税の計算上」、法定相続人としてカウントできる養子の数に制限を設けています。(実子がいた場合、1人まで。実子がいない場合は2人まで。)

(参考)国税庁HP「No.4170相続人の中に養子がいるとき」(→リンク

相続税法は、あくまでも「相続税」と「贈与税」の課税のための法律に過ぎず、民法などについて規定したり、国民の家族構成などを制限する法律ではありません。

しかし、ここで誤解が生じることがあります。「実子がいると1人しか養子にできない。実子がいない場合でも2人までしか養子にできない。」

これは完全に誤解です。民法上にはそんな制限はありません。このように、民法と税法がごっちゃになってしまうと「ミスリード」に繋がってしまいます。

また、法人税の世界では、こんな話も聞きます。

「役員にボーナスを出してはいけないんだよね。」
「役員報酬を期中に変更してはいけないんだよね。」

これは「定期同額給与」以外の給与のことを指しています。(ここで「定期同額給与」に触れると長くなってしまいますので、割愛します)

法人税の世界では、「役員にボーナスを出してはいけない」とも「役員報酬を期中に変更してはいけない」なんてどこにも書いてありません。

「定期同額給与以外の役員給与は”損金の額に算入しない”」とされているだけです。

もちろん、「損金の額に算入できないんだったら、結局、税金は増えるんだから、やったらダメと同じことだろ」というご意見もあるかも知れません。

ただ、私は、「役員賞与を出してはダメ」「役員報酬を変更してはダメ」というのは乱暴な解釈すぎないかな。。。と思うのです。

実際、会社法などの法律上も、株主総会などの定款に定めた方法、会社法に抵触しない方法なら役員賞与も役員報酬も変更できるのは事実です。(たとえ、それが法人税法上の定期同額給与に該当しなくても)

もちろん、役員には善管注意義務がありますし、会社を倒産させるほどのブッコ抜きをすれば会社に対する損害賠償義務や会社財産を危うくする罪(会社法963条)などに問われる可能性があります。

その上で、法人税法上、損金に算入されるかどうかという問題は別の論点なのです。

これも、経営と税法がごっちゃになってしまい「ミスリード」に繋がってしまう可能性があるかも知れないという一例です。

仮に、税法を優先して、優秀な結果を出した役員の賞与や昇給を見送った場合、モチベーションが下がりビジネスが崩壊してしまうことだってあり得るのです。それでは本末転倒となってしまう可能性もありますよね。

私が最初の会計事務所に入った時の大師匠(公認会計士の先生)に言われました。

『お前な、お客さんのところに言って「役員賞与なんて出してはいけません」という説明はするなよ。もしも社長が役員賞与を出したい、といったら、会社法(当時は商法)ではこうです、法人税法はこうです、損益計算書にはこう影響します、資金繰りにはこう影響します、ビジネスにはこう影響します、というような物事の説明をしなきゃダメだ。税法税法と税法を中心に社会が回ってるんじゃない。もちろん、税金は大事だけれど、商売あっての税金なんだ。それをきちんと説明して、その上で、社長が判断すればいい。最初から「役員賞与なんて出してはいけません」という説明をしたら、会社は選択肢が無くなって商売にならなくなる。税法がビジネスの上なんてことはあり得ないんだ。』

私は今でもこの大師匠の教えに感謝しています。

何も「税法を軽視しろ」というのではありません。ものごとにはいくつかの要素や検討事項があるのですから、それぞれを紐解いて、それぞれについてメリットとデメリットを比較し、最も良い選択をすべきだと思うのです。

税法もさすがに「法律」ですから「ビジネス」があって、その前提で法律は定められています。細かい諸規定はありますが、基本はビジネスがあって、そこに税法が乗っかっているということが法の趣旨に反映されているはずです。

ですから、上記の例では、例えば、「たとえ税務上、損金にならなくても役員賞与を出す方が我が社の業績向上に役に立つ。税金の負担分は利益でカバーしよう」という考えもあり得るのです。

それを「とにかく役員賞与は税務上損金じゃないから出したらダメ」とやってしまうと、企業の判断の選択肢が狭まってしまうのです。

世の中の出来事では「ここは税金をなるべく支払わないようにしよう(もちろん合法的に)」という場面も、「ここは多少税金を支払ってでも、長期的に考えればベストな選択肢がある」という場面もあるのです。

なお、税務調査の際にも、税務調査官でまだベテランの域に達していない人は、たまに「トンチンカン」(失礼!)なことを言うことがあります。

でもそれは仕方がないのです。民間で働いたことがない人にいきなり「民間」のことは理解しようがありません(私も同じ立場ならそうです)。ですから、あまりにもビジネスとかけ離れたことを言われた場合は、税法とビジネスの関係について良く考え、調査官に説明をしてみてください。

どっちが上とかどっちが下とかそういうことではないけれど、やっぱり、我が国企業のビジネス活動があっての法人税法なのです。

ではでは。

[著]節税ヒントがあるかもブログ メタボ税理士さん
[編集]M&A Online編集部
本記事は「節税ヒントがあるかもブログ」に掲載された記事を再編集しております。
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