コロナの影響がほぼ全ての業種に出てきている昨今、長期化の影響から、最近は個人事業主や零細企業では心が折れる形での廃業、休業が増えてきている。そこで、売手企業の選択肢を増やすためにも新しい視点での譲渡方法について考えてみたい。
高度経済成長期は、個人事業主、あるいは従業員2~3人の零細企業として独自に経営していく方法が適していた。しかし、これからの日本は労働人口が減少し、社会全体で見れば労働力の奪い合いが起こる。上場企業や大企業は人材不足が常態化し、定年も確実に延びる。
70歳くらいまで働くことが一般的になるのならいっそのこと、従業員50人以上くらいの中堅企業に自分の事業を売却し、その売却先企業でサラリーマンとして今までと同じ仕事をこなし、事業の借入や金融機関に対する個人保証から解放されるというのはどうだろうか。
同業の譲受先ならば話には乗ってくれやすいはずである。今経営している事業が黒字であれば売却により退職金代わりにいくらかは受け取れるかもしれないし、その後も安定したサラリーが期待できる。しかも、実質的には雇われ社長のようなポジションになるだろうし、今までのように資金繰りに悩まされることもなく、部下や後輩の教育係として好きな仕事に専念できるはずである。
買収した企業にとっては人材不足のカバーと、今まで外注していた仕事の内製化によるコストダウンも期待できる。売却した個人事業主や零細企業にとっての最大のメリットは、先述の通り資金繰り等お金の悩みから解放されるということであろう。
個人事業主や零細企業の後継者不在企業の場合、オーナー夫妻だけが最後まで残っているだけで、会社を売却しても従業員はゼロというケースもよく見かける。そうなると買手としては何を引き継げばいいのか……ということになり、当然値段も出せない。その際には立地条件にもよるが、「不動産M&A」という手段が取れないか検討してみて欲しい。
不動産の魅力、価値は過去に行われていた事業とは別問題であり、過去の利用方法とは違う利用価値を見いだせる買手がいればそれなりの値段がつくこともあろうし、不動産売却が見込めなかったとしても賃貸用不動産として活用が可能なケースもあるかもしれない。
そうなれば、事業を引き継がなかった法定相続人からしても相続財産として魅力的に映るのではなかろうか。私個人的には、まずは創業希望者にターゲットを絞ってアプローチしてみるのが効果的な気がしている。
どの地域にも歴史のある個人事業や零細企業がたくさんある。人口減少が明らかな日本では、その全ての事業がそのまま生き残るというのは現実的に難しいのかもしれない。譲渡企業が保有している不動産を含め、何らかの新しい視点や今後の生き残り策を意欲ある企業や若い経営者に託し、旧経営者は自分の得意分野で社会貢献するというのも一つの形なのではなかろうか。
できればその日が来るまでに事業の磨き上げを行い、買手から「是非とも御社を売って下さい。」と言われるような企業になれれば、皆にとってハッピーなM&Aが待っているかもしれない。
文:Antribe社長 小林 伸行(M&Aアドバイザー)
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